金剛蔵菩薩の歌 

文字数 1,687文字

金剛蔵菩薩は、ふたたび、歌でもって重ねて説いたのだった。

 「菩薩の行じるところみな 善なる静寂をこいねがい
 心にとらわれのない姿 はてなき宇宙の空のよう
 欲張りや自分勝手や思い込みの 汚れを除いて智慧に住む

 (菩薩とは)
 無数の仏や阿羅漢(聖者)を 一心に供養したてまつり
 “あらゆる生き物救おう”と 〈悟りを求める心〉を起こすのだ

 (菩薩とは)
 誠心誠意、〈戒(様々な心がけ)〉を保ち 罪やけがれを取り除き
 善く耐え忍んで“つつしみ”がそなわり おのれを恥じて“徳”がそなわり
 〈人徳のある智慧〉を持つので 広い心が清らかに輝くのだ
 さらには〈仏の智慧〉を深く願い やがては〈仏と等しい悟り〉を生み出すだろう

 (菩薩とは)
 過去・現在・未来の すべての仏を供養したてまつり
 宇宙のはてまで広がる仏の国々を ことごとく清らかにするのだ
 すべてのものを平等に 見つめる修行を積むがゆえに
 
 
〔十地〕
 “あらゆる生き物の解脱(さとり)のため まず私が悟りを求めよう”
 菩薩とは このような心を限りなくおこして
 施しを願い悪を滅ぼして 第一の〈歓喜の地〉に至るのだ 

 〈心からの誓い願い〉が力を生み 〈慈悲の心〉は広く強く
 深く〈戒〉を保って〈善〉を身につければ 第二の〈垢を離れた地〉に至ろう

 静かに耳をかたむけ 世の中のできごとに慈しみと憐れみをたれて
 深く清らかな心で 世間の猛り狂う煩悩の火を観る
 このような修行者は 第三の〈悟りの明かりの地〉に至ったのだ

 地獄の底から神々の世界までも 皆〈空〉にして〈無常〉なれど
 病や腫瘍や戦傷のかさぶたのように はかりしれない苦しみは燃え盛る
 “しかし、いや、なおさらに 〈仏の功徳〉をこの身にそなえたいのだ!”
 そうして〈仏の智慧〉が炎と燃え、輝きだす―― これこそ、第四の〈勇ましい焔の地〉

 禅定を深めて智慧を熟させ 〈仏の道の智慧〉を知る
 百千もの仏たちを 常に供養したてまつる
 はかり知れない仏の功徳を 想い続け念じ続けて ついに仏の加護を得る
 世間において稀有なこと 第五の〈勝利することの難しい地〉

 智慧と方便を働かせ 様々に世間を導こう
 為すことすべて衆生のため また仏たちを供養するため
 やがて〈無生の法(すべては本来、生まれることはないと明らかに知る真理)〉を得て 第六の〈諸仏が前に現れる地〉へと至る

 菩薩の修行は世の人の うかがい知るも難しいもの
 常に無心に 我を離れつつ  
 “すべては〈空〉ではあるが 十二の因縁によって存在している”と
 この微かにして妙なる法を 善く了解して至る、第七の〈遠くまで行く地〉

 智慧は澄み切り 導く方便も深まり 得がたい〈悟りの静けさ〉を得る
 そしてその〈静けさ〉をあらゆる生き物にも得させるために
 ふたたびあらゆる修行をおこない 様々な功徳を身に付けなおし
 あまねく皆を それら修行の心に導き入れようと 揺るがぬ決意の 第八〈不動の地〉

 大いなる智慧を身に付けた菩薩らは 行を修め 業(わざ)をそなえて 十の自在力を得る
 いくつもの 限りない大きさの姿となって あらゆる世界で 法を説き
 善なる威力を 世界のすみずみ 生き物の心のすみずみまで行き渡らせる 大いなる慈悲のゆえに
 これぞ 第九の〈善なる智慧の地〉

 そして ついに
 煩悩のきずなをぬぐい切り 仏法の蔵のとびらを開いて
 第一の浄らかな智慧に至る その位は すべての仏から授けられたもの
 無数の〈三昧(瞑想の境地)〉と〈智慧と行〉とは極まる
 その時 足もとには大蓮華の座が!
 その上に座れば 身体より放たれる大光明
 その光はすべての仏たちを照らし
 すべての仏たちは その眉間より光を放って この菩薩の頂きを照らす
 第十の〈法の雲となる地〉へ至ったのだ!
 あらゆる仏の法の雨を すべて受けとめる〈雲〉となる
 あらゆる煩悩の火を消し滅ぼす 法の雨を降らせる〈雲〉となるのだ 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み