口から炎を吐き出す餓鬼を救うためのダラニのお経

文字数 4,330文字

※【】は焔口餓鬼経で新たに挿入された部分
 《》は面然餓鬼経にあり、焔口餓鬼経では削除された部分。

佛説救拔熖口餓鬼陀羅尼經

 開府儀 同三司 特進試 鴻臚卿 肅國公 食邑三千戸 賜紫贈司空 謚大鑒 正號 大廣智大興善寺 三藏沙門不空 奉詔譯 
 
ある時、世尊・釈迦牟尼仏はカピラ城のニクリツナ寺にいらっしゃいました。そこでは大勢のお坊様や菩薩様がお釈迦様を【前も後ろも】取り囲み、説法を聞いておられました。

その時、阿難はひとり、静かなところで【受けた教えを振り返って】考えておりました。

その夜のこと。真夜中の丑三つ時に、【『炎の口』】という名の餓鬼が現れます。
【その姿は醜くいやしく、痩せ衰えてガリガリでした。口の中は火が燃えており、のどは尖った針のよう。髪の毛は雑草のように乱れ、爪も牙も長くとがっています。あまりに恐ろしい姿でした。】

「お前は三日後に命が尽き、すぐに餓鬼道に生まれるだろう。」

この言葉を聞いて阿難は怖くなって餓鬼に聞きます。

「【私は死んだら餓鬼道に生まれるのですか!?】いったい、どうすればこの苦しみから逃れられるのですか?」

餓鬼は答えます。
 
「お前は明日、百千、ナユタ(10の60乗)、ゴガシャ(10の52乗)の数の餓鬼たちにいっぱい施しをしろ!あと、百千のバラモンとリシ(仙人)たちにもだ。
マガダ国のでっかい升があるだろ。あれにひとりづつ、ひと升ぶんの食べ物と飲み物を用意しろ。
それから、俺のために三宝に供養しろ。 そうすれば、お前の命は助けてやる。
ああ、これで俺も餓鬼の苦しみから逃れて天上に生まれ変われるぞ!」

阿難はこの【『火を吐く餓鬼』】をよく見てみました。
体は気の毒なほどガリガリ、手足は枯れ枝のようにひょろひょろ。そして、【口の中では炎が】燃え上がっているのです。
のどは針のように細く、髪の毛はクシャクシャで乱れ切っています。
毛も爪も伸び放題。《大けがをしているようです。》

また言います。
「もし俺の言うことを聞かなかったら、もっともっと恐ろしい目にあわせてやるぞッ!!」 

阿難の体中の毛が逆立ちます。
慌てて立ち上がり、急いで御仏のところへ駆けつけます。

五体を地面に投げだし、御仏の足を頭にいただいてひれ伏します。
そしてぶるぶると震えながら御仏に申し上げます。

「【願わくば、私の苦しみをお救い下さい!どういうことかと言いますと、私は静かなところで教えて頂いた法について念じていたのです。】《世尊よ、お助け下さい! 仏様、お助けを!》
そこで、『火を吐く餓鬼』に出会いました。
餓鬼は私に言いました。『お前の命はあと三日だ。そしてお前は餓鬼道に生まれるのだ』と。
私はすぐにたずねました。『どうしたらそれから逃れられるのですか?』と。
餓鬼は答えます。『もしお前が今すぐ、百千、ナユタ、ゴガシャの数の餓鬼たちと、百千のバラモン、リシたちに【様々な】食べ物、飲み物を施したなら、お前の寿命を延ばしてやろう』と。
【世尊よ、私は餓鬼や仙人たちの食事について、どれだけ準備をすればいいのでしょうか??】《世尊よ、私はいったいどうすればいいのでしょうか??》」

御仏は阿難に答えておっしゃいます。
「阿難よ、怖がらなくていいのだよ。【私に考えがあります。あなたは少しの施しものだけで、百千、ゴガシャの】《少し違ったやり方で、この》餓鬼たちやバラモン、リシたちに【様々な】食事を差し上げられます。ほら、くよくよしないで。」

御仏は阿難におっしゃります。
「ここに、【『はかりしれない強い功徳の、自在に輝く特別に勝れた妙なる力』】というダラニがある。
このダラニを唱えさえすれば、すぐにクテイ(億)、ナユタ、百千、ゴガシャの数の餓鬼と、六十八クテイ、ナユタ、百千のバラモンやリシ方に【上等の妙なる飲食物で満足】させることが出来る。彼らの【一人一人の】目の前に、マガダ国で用いる大きな升で【七七杯】(四十九杯)分の食物が現れるのだ。」

御仏は阿難におっしゃります。
「私は前世でバラモン【となり】、観世音菩薩と世間自在威徳如来の所で、このダラニを授かった【からこそ】、数限りない餓鬼たちと仙人方に【様々な】食事を配り差し上げることが出来たのだ。そしてこの【餓鬼たちを苦しみの身から解き放ち】、天上へと生まれ【させる】ことが出来たのだ。」《そしてこの餓鬼への食事の施しの功徳によって、バラモンの体を捨て去り、天上へと生まれることが出来たのだ。》

「阿難よ、あなたは今、このダラニ【をしっかりと保って、福徳も寿命もすべて伸ばしてゆくがよい。】」《このダラニでもって自分自身の身を守るがよい》
それから世尊は阿難にこのダラニを説き示したのだった。


  ナモーサッバ タタギャターバロキテイ オン サンバラ サンバラ ウン

 
御仏は阿難におっしゃります。
「【もし善良な男女が長寿と福徳のますます栄えることを望むのなら、すみやかに檀(布施)波羅蜜を完成するがよい。】
【毎日、早朝、もしくはどの時間でも問題はないのだが】、ひとつの清らかな器に浄水を入れよ。そこに【少しのご飯か、はったい粉か、餅などの食べ物を置き、右手のひらに器を載せて】、このダラニを七遍、唱えよ。そしてその後、【四人の如来の御名を唱えるがよい】。


【 ノウボ バギャバテイ プラブータ ラトゥナ タタギャタヤ
  これは多宝如来を言う。
多宝如来の御名を唱えて加持することで、一切の餓鬼たちの数限りない前世で積み上げてきた物惜しみの悪業を破り、円満な福徳を得させることが出来る。

  ナモーバギャバテイ ソルパーヤ タタギャタヤ
  これは、南無妙色身如来という意味。
妙色身如来の御名を唱えて加持することで、餓鬼たちの醜悪な卑しい姿を破り、美しい姿を得させることが出来る。

  ノウボ バギャバテイ ビプラガーヤ タタギャタヤ
  これは廣博身如来を言う。
廣博身如来の御名を唱えて加持することで、餓鬼たちののどを緩めてひろげ、思うがままに食べ物が食べられるようにする。

  ノウボバギャバテイ アバヨウカラヤ タタギャタヤ
  これは離怖畏如来を言う。
離怖畏如来の御名を唱えて加持することで、一切の餓鬼たちのすべての恐怖がことごとく取り除かれ滅ぼされて、餓鬼の世界から離れることが出来る。】

御仏は阿難におっしゃります。
「【もしも良家の善良な男子たちが、四人の如来の御名を唱えて加持が終わったならば、指を七遍、はじいて、食器を取り】、清らかな地面の上に腕を伸ばして、そこでこれを注ぐがいい。この施しを、四方でおこなう。
すると、百千、《クテイ、》ナユタ、ゴガシャの数の餓鬼たちのそれぞれの前に、マガダの大きな升の七七杯(四十九杯)分の食事が現れるのだ。」

この食事を食べ終わって、彼らは等しく満腹でみたされる。
この餓鬼たちは、ことごとく【亡者の体(鬼身)】《虚ろな体(虚身)》を脱ぎ捨てて天へと生まれ変わる。」


「阿難よ。
「もしも出家した男女の弟子、在家の男女の弟子たちがいたとして、この【秘密の言葉と四人の如来の御名でもって食事を加持して亡者に施した】ならば、すぐに彼らははかりしれない功徳を手に入れるだろう。《その命も伸びるだろう》
すなわち、百千、クテイの如来方を平等に供養したのと同じ功徳である。【彼らの寿命は延び、姿に力がみなぎり、善い心根が育ってゆく】。《彼らの顔色は鮮やかで潔くなり、強い功徳が積み上げられることになる》

すべての、人ならざる者、《プレータ(餓鬼)たち、》ヤシャ、ラセツなどの【様々な邪悪な亡者の魂(諸悪鬼神)】《餓鬼たち》も、この人を【害することは出来なくなる】《見て恐れをなし、怖気づいてこの人をまともに見ることもできなくなる》。【また彼らもはかりしれない福徳と寿命を手にすることが出来るのだ】。」

「もしバラモンやリシ方に施したいならば、【清らかな】飲食物で器をいっぱいに盛り付け、この【秘密の言葉】で【二】七遍、【加持】をし、【清らかな】流水になげ入れるがいい。こうすれば、この食事は天の仙人たちの美しく妙なる食事へと変わる。こうして、百千、クテイ、ゴガシャの数のバラモンやリシ方に【供養】することが出来る。
彼らはこの【秘密の言葉の力ある功徳で加持された食事】を食べることによって、それぞれ【根本で願っていた善なる功徳が完成】してゆく(成就 根本所願 諸善功徳)《体中の感覚が満たされ、吉祥の心持ちが完成する(諸根具足 圓滿吉祥)》。

彼らは口々に誓願をおこしてこのように語る。

『願わくば、この食事を施した人の【寿命が延び、姿も力も安楽となりますように。】
【またこの人の心が、見聞きするところ、正しく理解し、】清らかになりますように。
この人に梵天のような強い功徳がそなわり、《常に》清らかな修行を歩んで行けますように。
また同じく、百千、ゴガシャの如来様の功徳を供養出来ますように。
すべての悪意ある敵【から守られますように】《に常に勝ち続けられますように》。』

「もしも出家した男女の弟子、在家の男女の弟子たちが、【仏法僧の】三宝を供養したいと思ったならば、お香と花と、【清らかな】飲食物を用意して、まさにこの【秘密の言葉】でもって、二十一遍、【加持をし】、三宝にお供えするがよい。
そうすれば、この善なる男女たちは、天のご馳走という素晴らしい料理をもって十方の世界に満ちている仏・法・僧の三宝に差し上げて、供養することが出来る。こうして三宝を褒め称え、【お招きして、その功徳を喜ぶことが出来るのだ】(讃歎 勸請 隨喜功徳)。この人は常に、御仏方にも憶えられ、念じられて【褒め称えられる。こうして、檀(布施)波羅蜜を完成させることが出来るのだ】。

阿難よ、【あなたは私の言葉に従って、仏法にかなった修行をし、これを広く教えて回るがよい】《行くがよい。自らの身を守るのだ》。そうして人々にこの真実を見聞させ、はかりしれない福徳を得させなさい。
【この教えを、名付けて『炎を吐く餓鬼と苦しむ生き物たちを救うダラニのお経』という。この名前をあなたはしっかりと守りなさい。」
大勢の弟子たちと阿難は、この御仏の教えを聞いて、一心に信じ受け止め、喜んで去って行ったのだった。】《そして、生まれ変わった世界で、常に百千、クテイの御仏方に会うことが出来るようにしておやりなさい。」



救拔焔口餓鬼陀羅尼經
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