地獄 その2 〈八大地獄・1 想地獄〉

文字数 1,507文字

【想地獄(そうじごく)】
第一の大地獄はどうして「想いの地獄」というのか。

ここに堕ちた者たちのうち、ある者は手に“鉄の爪”が生える。
その爪は、怒り狂って暴力をふるうごとに長く鋭く伸びる。
同じ地獄に堕ちた者同士で憎しみ合い、傷つけ合おうとして、その爪でもってつかみかかる。
持つや否や、手の形に肉が削げ落ちる。
互いに憎しみ、殺そうとして、互いの肉体を壊し続ける。
やがて、
死の恐怖を味わいながら、

―“自分は死んでしまった”

と想う。

すると、
どこからか冷たい風が吹いて来て、
肉はみるみる膨れ、
皮はつながって生命が脈打ち始める。

まもなく息を吹き返し、
よろよろと立ち上がってこう想う。

―“私は、また生き返ってしまった。”

そして、
彼を取り囲む地獄の亡者たちはこう言う。

「私たちの想いが、おまえを生き返らせたのだ。
―“おまえが憎くて殺したりない”という想いが―。」

これら、“救いようのない想い”の数々によって、「想地獄」と呼ばれる。



よみがえった亡者は、いや増す憎しみによっていつの間にか手に“刀剣”を持っている。
その刃は鋭い。
互いに怒りに身をまかせて、乱暴に切り合い、刺し合う。
皮は剥げ落ち、肉は裂ける。
やがて、
身が砕かれて地に倒れ伏す。
死の恐怖を味わいながら、

―“自分は死んでしまった”

と想う。

すると、
どこからか冷たい風が吹いて来て、
肉はみるみる膨れ、
皮はつながって生命が脈打ち始める。

まもなく息を吹き返し、
よろよろと立ち上がってこう想う。

―“私は、また生き返ってしまった。”

そして、
彼を取り囲む地獄の亡者たちはこう言う。

「私たちの想いが、おまえを生き返らせたのだ。
―“おまえが憎くて殺したりない”という想いが―。」

これら、救いようのない想いの数々によって、「想地獄」と呼ばれる。



よみがえった亡者は、じめじめと陰湿な憎しみで相手を殺そうとして、手に“ぬらぬらと光る黒い〈油影刀(ゆえいとう)〉”を持っている。
鋭い刃で互いを切りつけ、刺し合うので、
皮は裂け、
肉は砕け散る。
死の恐怖を味わいながら、

―“自分は死んでしまった”

と想う。
すると、
どこからか冷たい風が吹いて来て、
肉はみるみる膨れ、
皮はつながって生命が脈打ち始める。

まもなく息を吹き返し、
よろよろと立ち上がってこう想う。

―“私は、また生き返ってしまった。”

そして、
彼を取り囲む地獄の亡者たちはこう言う。

「私たちの想いが、おまえを生き返らせたのだ。
―“おまえが憎くて殺したりない”という想いが―。」

これら、救いようのない想いの数々によって、「想地獄」と呼ばれる。



またもよみがえってしまった亡者は、どす黒い憎しみを抑えることが出来ない。
気がつくと手に“小刀”を握っている。
有無を言わさず、
怒りを刃に籠めて切りかかり、
刺し貫こうとするも、
同様の刃が自らにも振るわれ、
皮は裂け、
肉が砕かれる。
死の恐怖を味わいながら、

―“自分は死んでしまった”

と想う。
すると、
どこからか冷たい風が吹いて来て、
肉はみるみる膨れ、
皮はつながって生命が脈打ち始める。

まもなく息を吹き返し、
よろよろと立ち上がってこう想う。

―“私は、また生き返ってしまった。”

そして、
彼を取り囲む地獄の亡者たちはこう言う。

「私たちの想いが、おまえを生き返らせたのだ。
―“おまえが憎くて殺したりない”という想いが―。」

これら、救いようのない想いの数々によって、「想地獄」と呼ばれる。
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