如来の出現
文字数 1,398文字
菩薩たちの理想の行者である大菩薩〈普賢菩薩(賢明さがすみずみまで行き渡った者)〉は、〈タターガタゴートラ・サンブータ・シリー(如来性を起こした妙徳なる菩薩)〉にこのように語って聴かせた。
「仏の子よ。
如来の智慧の至らないところなどはありもしないのです。なぜならば、世界のはてまで満ち満ちているあらゆる生き物はみな―大きいものも、小さいものも、目に見えないくらい小さいものも、尊い神々も、地獄の底の者までも―如来の智慧を身にそなえていないものなど、ありはしないのですから。ただ、多くの者がそのことを知らず、気付いていないだけなのです。
例え話で説明いたしましょう。
三千大千世界と同じ大きさの書物があったとします。そのなかには、大千世界のことすべてが記録されています。中千世界のこともすべて記録されています。もちろん、小千世界のこともひとつのこらず書かれているのです。
それだけではありません。四天王の治める世界のことも、帝釈天の治める須弥山すべてのことも、その上に広がり、そびえる神々の世界―空に浮かぶ大地を持つ神々の世界〈地天宮〉、世界を支配する魔王の住む〈欲天宮〉、世界の原形を生みだす神々の世界〈色天宮〉、そして最高・最上の光と響きの神々の世界〈無色天宮〉―のことまでも、包み隠すこともなく、すべてが書かれているのです。
いったい、この書物はどこにあるのでしょう?
実はこの書物は、ひとつぶの小さな塵のなかに在るのです。ひとつぶだけに在るのではありません。ありとある、すべての塵のなかに、この書物は隠されているのです。
時に、ひとりの人が現れます。この人は、智慧にすぐれ〈清浄な天眼をそなえること〉を成し遂げています。
この人が、塵の中に書物があることをみつけ、これを手に取り、読んで、こう思います。
――こんなにも広大な書物が、ひとつぶの塵のなかに隠されていて、誰の役にも立たないでいる。
ようし、私の持てる力でこの塵を砕いて、みんなにも読めるようにして、みんなの利益になるようにしよう!
そうしてこの人は、そのようにしたのでした。
仏の子よ。
〈如来の智慧、すがたなき智慧、さまたげられることなき智慧〉とは、あらゆる生き物の身のうちにそなわっているのです。
ただ、〈おろかな、みだらな、よこしまな想い〉にとらわれていて、このことからすっかり目をそむけているので、信じられず、見ることもなく、知ることもないのです。
如来は〈一切のさまたげのない清らかな天眼〉で、あらゆる生き物たちを観察して、こう思うのです。
――不思議なことだ。どうしてなのだろう。
彼らは自らのなかに〈如来の智慧〉をそなえているのに、そのことを知らないでいる。
私は彼らを導いて、〈聖なる正しい道〉へ目覚めさせよう。
そうして、さかさまにひっくり返ったようなおかしな思い込み、よこしまな心の汚れから永遠に離れさせよう。
彼らはみな、〈如来の智慧〉をその身のうちに宿しているのだ。彼らは“仏となにも異なることはない”のだから。
この想いから、如来は生き物たちに〈八つの聖なる道(八正道)を修行すること〉を教え、迷いからさまさせるのです。迷いを離れるので、如来の智慧がそなわるのです。そうして、如来に等しいあらゆる生き物たちを導いてゆくのです」(了)
「仏の子よ。
如来の智慧の至らないところなどはありもしないのです。なぜならば、世界のはてまで満ち満ちているあらゆる生き物はみな―大きいものも、小さいものも、目に見えないくらい小さいものも、尊い神々も、地獄の底の者までも―如来の智慧を身にそなえていないものなど、ありはしないのですから。ただ、多くの者がそのことを知らず、気付いていないだけなのです。
例え話で説明いたしましょう。
三千大千世界と同じ大きさの書物があったとします。そのなかには、大千世界のことすべてが記録されています。中千世界のこともすべて記録されています。もちろん、小千世界のこともひとつのこらず書かれているのです。
それだけではありません。四天王の治める世界のことも、帝釈天の治める須弥山すべてのことも、その上に広がり、そびえる神々の世界―空に浮かぶ大地を持つ神々の世界〈地天宮〉、世界を支配する魔王の住む〈欲天宮〉、世界の原形を生みだす神々の世界〈色天宮〉、そして最高・最上の光と響きの神々の世界〈無色天宮〉―のことまでも、包み隠すこともなく、すべてが書かれているのです。
いったい、この書物はどこにあるのでしょう?
実はこの書物は、ひとつぶの小さな塵のなかに在るのです。ひとつぶだけに在るのではありません。ありとある、すべての塵のなかに、この書物は隠されているのです。
時に、ひとりの人が現れます。この人は、智慧にすぐれ〈清浄な天眼をそなえること〉を成し遂げています。
この人が、塵の中に書物があることをみつけ、これを手に取り、読んで、こう思います。
――こんなにも広大な書物が、ひとつぶの塵のなかに隠されていて、誰の役にも立たないでいる。
ようし、私の持てる力でこの塵を砕いて、みんなにも読めるようにして、みんなの利益になるようにしよう!
そうしてこの人は、そのようにしたのでした。
仏の子よ。
〈如来の智慧、すがたなき智慧、さまたげられることなき智慧〉とは、あらゆる生き物の身のうちにそなわっているのです。
ただ、〈おろかな、みだらな、よこしまな想い〉にとらわれていて、このことからすっかり目をそむけているので、信じられず、見ることもなく、知ることもないのです。
如来は〈一切のさまたげのない清らかな天眼〉で、あらゆる生き物たちを観察して、こう思うのです。
――不思議なことだ。どうしてなのだろう。
彼らは自らのなかに〈如来の智慧〉をそなえているのに、そのことを知らないでいる。
私は彼らを導いて、〈聖なる正しい道〉へ目覚めさせよう。
そうして、さかさまにひっくり返ったようなおかしな思い込み、よこしまな心の汚れから永遠に離れさせよう。
彼らはみな、〈如来の智慧〉をその身のうちに宿しているのだ。彼らは“仏となにも異なることはない”のだから。
この想いから、如来は生き物たちに〈八つの聖なる道(八正道)を修行すること〉を教え、迷いからさまさせるのです。迷いを離れるので、如来の智慧がそなわるのです。そうして、如来に等しいあらゆる生き物たちを導いてゆくのです」(了)