ハーヴ(5)

文字数 640文字

店の前まで見送りに出てくれたルミ子さんと別れ、路地を歩いている。



──あのお店、大丈夫なのかな。



そっと振りかえると、店の戸にルミ子さんが張り紙をしているのが見えた。

人通りのない細い道。

運命線云々と書いてある張り紙……。



──どんな人がバイトに来るんだろう。っていうか、誰も来ないかも……。



ルミ子さんが張り紙を引き戸に押しつけるたび、戸の木枠にはめ込まれたガラスのガタガタいう音が響いてくる。

ひとりぼっち、という言葉がふと思い浮かぶ。

どことなく、今の自分とも重なってしまう。



──どうしよう……なんか見てられない。



迷った。

またあの店にもどるかどうか、真剣に迷った。

だけど──



「ルミ子さん……!」



結局、わたしは来た道を走ってもどる。



──こんなふうに決めていいの? 本気?



頭の中がぐるぐるしたまま店の前まで来ると、ルミ子さんが振り向く。



「あらっ? 忘れ物?」

「いえ……その……」



びっくりしているルミ子さんの顔を見ても、実のところまだ迷っていた。



「ルミ子さん……あの……」

「はい……?」

「えっと……」



それでも、わたしを見あげるキョトンとした目に気持ちが決まる。



──もうっ、この際だ……!



腹をくくり、すうっと息を吸いこむ。

そして……



「わたしの運命線、長いかどうかはわからないんですけど……」



と切りだした──。

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