ハーヴ(1)
文字数 1,006文字
次の日、わたしはおばあさんの古道具屋をたずねていた。
もらったハーモニカがとても安物とは思えずネットで調べてみると、オークションサイトでは同じものが万単位の値段で取り引きされていた。
驚いたわたしはハーモニカを返しに、もう一度この店へやって来たのだった。
「すみません、高価なものだとは知らなくて……」
「どうしてあやまるの? それより、今日も会えて本当に嬉しいわ」
「え? あ、ありがとうございます……」
店に入るなりわたしは大歓迎され、おばあさんの淹れてくれたハーブティーと砂糖衣がたっぷりかかったレモンケーキでもてなされている。
「ハーモニカ、遠慮しないでもらってちょうだい」
「いえ、こんな高価なものいただけません」
「いくらするかなんて、気にしなくていいのよ」
「そういうわけには……」
「もうしまって。お願い」
言葉と一緒に、おばあさんは両手でハーモニカをにぎらせる。
──ちょっと荷物を運ぶの、手伝っただけなんだけど……。
──でも……遠慮しすぎると、かえって悪いかな。
さっきから押し問答をくり返し、もらってほしいと同じことを何度も言わせてしまっている。
だんだんと、ハーモニカを返すことが逆に申し訳なく思えてくる。
──ここはもう素直に受け取るしかないか……。
「では……お言葉に甘えます」
「ええ、そうして。よかった」
「ありがとうございます。大切にします」
「フフッ、ねえ……わたしがハーモニカの価値に気づかないで、うっかりあげちゃったと思って心配したんでしょ?」
おばあさんはからかうように言う。
「い、いえ……」
「これでもちゃんと物の価値はわかるのよ」
ちょっと得意げな顔でおばあさんがウィンクする。
そんな様子に、お茶目、という言葉がぴったりのかわいい雰囲気の人だなと思う。
「若い頃は古いものなんか大嫌いだったわ。でも、亀の甲より年の功。いつの間にか骨董に目が利くようになるんだもの。人って不思議よね……」
「え? 好きでお店をはじめられたんじゃないんですか?」
「いろいろあったの。ちょっと聞いてくれる?」
おばあさんはそう言いながら、ハーブティーをカップにつぎたした。