居場所(2)
文字数 1,807文字
──そうだ……わたし確かアパートの部屋でオルゴールを聞いてて……。
──美雨ちゃんからもらったオルゴール……。
──あのオルゴールは、今どこに……?
思わず立ちあがったときだった。
「あ、比呂ちゃん」
ドアが開き、流風くんが入ってくる。
「流風くん……」
「海翔と買い物に行ってたんだよね。いつ帰ってたの?」
「ついさっきだよ。流風くんは今まで勉強?」
「うん。今日は3人の先生の授業が連続だったから、ちょっと疲れちゃった。でも、11次元の話はおもしろかったよ」
流風くんは楽しそうに言いながら冷蔵庫からジュースを取り出すと、大きなコップにそそいだ。
──11次元……?
ジュースを飲んでいる流風くんを唖然と見つめる。
──確かにこれじゃあ、小学校の勉強なんて退屈すぎる。
「流風くんって、将来なにになるの? 学者……とか?」
「別に考えてないよ」
「そんなに難しい勉強してるのに?」
「おもしろそうなテーマをリクエストして、講義してもらってるだけだもん」
「へ、へえ……」
──ヤバい。やっぱり天才少年なんだ。
──これじゃあ大人だって流風くんに敵わない……。
わたしとは頭の構造からして違うんだろうなと恐れ入る。
──そういえば、マサミチさん言ってたっけ……。
『基本的に、流風がすることについて、僕はなにも言わないほうがいいんですよ』
──マサミチさんがあんなふうに言ったのは、流風くんが天才少年だからなのかな。
「ねえ……わたしをここに住まわせようって、流風くんからマサミチさんに言ってくれたの?」
「うん、そうだよ。おじいちゃんもすぐに賛成してくれたよ。それが、どうかした?」
「……ちょっと確かめたかっただけ」
──知り合って間もないわたしを家に住まわせるなんて、とんでもないこと……やっぱり、流風くんから言いだしたことだったんだ。
──そして、全面的に流風くんを信頼しているマサミチさんは、迷わずわたしを古葉村邸に……。
「比呂ちゃん」
「え? あ、なに?」
「調理台にあるサンドイッチ、比呂ちゃんが作ったの?」
「そうだよ。食べる?」
「うん、食べたいな」
わたしがサンドイッチを持ってきてあげると、流風くんはひとつ手に取り、その場でパクッと食いついた。
「わ、美味しい! たくさんもらっていい?」
「いいよ」
「やったねっ」
流風くんは嬉しそうに、次々とサンドイッチに手を伸ばす。
──ホント、美味しそうに食べてくれてる……。
微笑ましく眺めているとき、ハタと気づく。
──あ、海翔くんに残しとくって言ってたんだっけ。
「流風くん、少し海翔くんの分も……」
「ん?」
次の瞬間、流風くんは最後のサンドイッチを口に放りこんだ。
「あ……」
──ぜんぶ食べちゃった……。
──言うのが遅かったみたい……。
「海翔がどうかした?」
「う、ううん。なんでもない……」
──別にいいかな。海翔くん、帰ってくる頃にはきっとサンドイッチのことなんか忘れてるよね……。
「ごちそうさまでした。じゃ、そろそろ、はじめよっと」
「え? なにを?」
「夕ご飯の準備。今日はボクが当番なんだ」
流風くんは流し台へ行き手を洗うと、さっそくまな板と包丁を用意した。
──動きが機敏……。
──普段からよく料理してるんだろうな。偉いなあ。
「流風くん、わたしも手伝うよ」
「いいの?」
「お世話になってるんだから、このくらいはさせてもらわないと。今晩はなに作るの?」
「親子丼にしようかなあって」
「あ、いいね」
「ボク、玉ねぎの皮むくよ」
「じゃあ、わたしは卵、割っとくね」
ふたりで手分けして作業をはじめる。
──それにしても……やっぱり、このままなにもしないでお世話になり続けるわけにはいかないよね。
──海翔くんでさえ、家にお金を入れてるっていうのに……。
──だけど働くあてもないし……。
身元を証明しなくてもできる仕事で、まともなものなんてあるはずもない。
──どうしたらいいんだろう……。
料理中なのに、わたしは少し考えこんでしまった。
──美雨ちゃんからもらったオルゴール……。
──あのオルゴールは、今どこに……?
思わず立ちあがったときだった。
「あ、比呂ちゃん」
ドアが開き、流風くんが入ってくる。
「流風くん……」
「海翔と買い物に行ってたんだよね。いつ帰ってたの?」
「ついさっきだよ。流風くんは今まで勉強?」
「うん。今日は3人の先生の授業が連続だったから、ちょっと疲れちゃった。でも、11次元の話はおもしろかったよ」
流風くんは楽しそうに言いながら冷蔵庫からジュースを取り出すと、大きなコップにそそいだ。
──11次元……?
ジュースを飲んでいる流風くんを唖然と見つめる。
──確かにこれじゃあ、小学校の勉強なんて退屈すぎる。
「流風くんって、将来なにになるの? 学者……とか?」
「別に考えてないよ」
「そんなに難しい勉強してるのに?」
「おもしろそうなテーマをリクエストして、講義してもらってるだけだもん」
「へ、へえ……」
──ヤバい。やっぱり天才少年なんだ。
──これじゃあ大人だって流風くんに敵わない……。
わたしとは頭の構造からして違うんだろうなと恐れ入る。
──そういえば、マサミチさん言ってたっけ……。
『基本的に、流風がすることについて、僕はなにも言わないほうがいいんですよ』
──マサミチさんがあんなふうに言ったのは、流風くんが天才少年だからなのかな。
「ねえ……わたしをここに住まわせようって、流風くんからマサミチさんに言ってくれたの?」
「うん、そうだよ。おじいちゃんもすぐに賛成してくれたよ。それが、どうかした?」
「……ちょっと確かめたかっただけ」
──知り合って間もないわたしを家に住まわせるなんて、とんでもないこと……やっぱり、流風くんから言いだしたことだったんだ。
──そして、全面的に流風くんを信頼しているマサミチさんは、迷わずわたしを古葉村邸に……。
「比呂ちゃん」
「え? あ、なに?」
「調理台にあるサンドイッチ、比呂ちゃんが作ったの?」
「そうだよ。食べる?」
「うん、食べたいな」
わたしがサンドイッチを持ってきてあげると、流風くんはひとつ手に取り、その場でパクッと食いついた。
「わ、美味しい! たくさんもらっていい?」
「いいよ」
「やったねっ」
流風くんは嬉しそうに、次々とサンドイッチに手を伸ばす。
──ホント、美味しそうに食べてくれてる……。
微笑ましく眺めているとき、ハタと気づく。
──あ、海翔くんに残しとくって言ってたんだっけ。
「流風くん、少し海翔くんの分も……」
「ん?」
次の瞬間、流風くんは最後のサンドイッチを口に放りこんだ。
「あ……」
──ぜんぶ食べちゃった……。
──言うのが遅かったみたい……。
「海翔がどうかした?」
「う、ううん。なんでもない……」
──別にいいかな。海翔くん、帰ってくる頃にはきっとサンドイッチのことなんか忘れてるよね……。
「ごちそうさまでした。じゃ、そろそろ、はじめよっと」
「え? なにを?」
「夕ご飯の準備。今日はボクが当番なんだ」
流風くんは流し台へ行き手を洗うと、さっそくまな板と包丁を用意した。
──動きが機敏……。
──普段からよく料理してるんだろうな。偉いなあ。
「流風くん、わたしも手伝うよ」
「いいの?」
「お世話になってるんだから、このくらいはさせてもらわないと。今晩はなに作るの?」
「親子丼にしようかなあって」
「あ、いいね」
「ボク、玉ねぎの皮むくよ」
「じゃあ、わたしは卵、割っとくね」
ふたりで手分けして作業をはじめる。
──それにしても……やっぱり、このままなにもしないでお世話になり続けるわけにはいかないよね。
──海翔くんでさえ、家にお金を入れてるっていうのに……。
──だけど働くあてもないし……。
身元を証明しなくてもできる仕事で、まともなものなんてあるはずもない。
──どうしたらいいんだろう……。
料理中なのに、わたしは少し考えこんでしまった。