新しい場所(2)

文字数 917文字

今日はお手伝いさんが来ていたので、みんなが出払ったあと、さっそく仕事を教えてもらった。

そして午後から、ひとりでサンルームの掃除に取りかかっている。



──それにしても、家にこんな広いサンルームがあるってすごい。

──立派なバルコニーもあるし……。ホントにお屋敷って感じ。



そのとき、玄関のドアが開く音がする。



──誰かな。



テーブルを拭く手を止めて振りかえると、廊下を歩いてくる海翔くんの姿が見えた。



──確か約束があるって出て行ったんだっけ。

──ずいぶん早く帰ってきたけど、どんな用だったんだろう……。



海翔くんもわたしに気づき、サンルームへやって来る。



「おかえりなさい」

「……ただいま」



海翔くんは肩にかけていたギターケースを置くと、不機嫌そうな顔でソファに腰を下ろす。



──なんか怒ってる……? あ、違うかも。

──海翔くんって、喜んでるのにムッとした顔するときあるから。

──サンドイッチのときもそうだったし……。


「ねえ、海翔くん。なにかいいことでもあったの?」



すると海翔くんが眉間にシワを寄せる。



「……この顔がいいことあった顔に見えんの?」

「え……」


──うわっ、外した。ホントに機嫌悪かったんだ。


「ははっ、ご、ごめん。なんか……ぼんやりしてた。はは……」


──風向きが悪い。こういうときは迷わず退散っ。


「ほ……ほかの場所も掃除しなくっちゃ。広いおウチは大変だねえ」



そそくさと床に置いてあったバケツを持ち、部屋を出ようとしたけれど……



「待って」



ドアのところで海翔くんに呼びとめられる。



「……なに?」

「グチ聞いてくんない? ちょっと話し相手になってよ」



海翔くんは腕組みをしてソファの背にもたれ、相変わらずの不機嫌顔でふんぞりかえっている。



「お願いだからさ」

「……」


──偉そうだなあ。とてもお願いしてる態度じゃないけど……。

──まあ、グチを聞くくらいなら……。


「うん……いいよ」



もどってきて、海翔くんの向かいのソファに座った。

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