セッション(4)
文字数 1,662文字
客間はすぐにでもセッションができる状態になっていた。
そこへ、着替え終えた海翔くんがやって来る。
「うわ、準備万端。いつの間に?」
「ねえ、お兄ちゃん。なんでノートパソコンまで持ってきたの?」
「ああ、これか? パーカッションの音源がいると思ってさ。美雨、電源つないで」
「うん、わかった!」
──パーカッション……? ますます本格的になってきてる……。
「はい、海翔のギター」
「ああ」
海翔くんは流風くんからギターを受け取り、譜面台に楽譜を置く。
──もしかして……海翔くん、久しぶりに自分のギターを弾きたくなっただけなんじゃあ……。
──わたしとセッションしたいなんて、みんなの憶測にすぎな……
「ハーモニカで吹ける曲にしたから」
振り向きながら、海翔くんがわたしに言った。
「あ……はい……ありがとうございます……」
──そうだよね。甘かった。この流れで吹かないわけにはいかないよね……。
観念してハーモニカをにぎり、海翔くんの隣に行く。
「あれ? あんたどっか調子悪いの? 元気なさそげだけど」
「いえ、別に……」
「さっきまで、さんざん人に食ってかかってたのにな?」
「食って……って、そんなつもりありません。それより、どんな曲ですか。難しいのだと、正直、吹けるかどうか……」
「ずいぶん謙遜するんだな。ハーモニカ持ち歩いてる人間が」
「そ、それは単なる偶然で……」
「大丈夫、大丈夫。ほら、楽譜」
──軽く言ってくれちゃってるけど、ホントに大丈夫かなあ……。
受け取った楽譜を、おそるおそる見てみる。
「無理そうなら、ほかのもあるけど?」
「あ、いえ……大丈夫です」
──これくらいなら、まあ……。
曲調はゆったりしている。
少し練習すれば、わたしでもなんとかなりそうだった。
「じゃ、しばらく自主練タイム。俺、チューニングしとくから」
「は、はい」
調整中のギターの音が響く中、わたしは楽譜を読み、メロディを確かめる。
──それにしても、大ごとになってきちゃったな。
──なんでこんなことに……。
──そもそも、どうして古葉村邸の前に立ってたのか、まったく思い出せな──……えっ!?
気がつけば、流風くんと美雨ちゃん、それにマサミチさんまで、待ちきれないと言わんばかりの表情でわたしと海翔くんを見ている。
──みんな、ソファで前のめりになってる。相当楽しみにしてるみたい。
──と、とにかく、今はこの曲をちゃんと吹くことだけを考えよう……。
いつの間にか、ギターの音がやんでいる。
海翔くんはチューニングを終えたようだった。
「どう? いける?」
「え、ええ……」
わたしの返事に、海翔くんがうなずく。
「じゃ、さっそくはじめるか……」
そして、即席であつらえた観客席のほうを向いた。
「えー、お待たせしましたっ。それではさっそく、ミニライブ in 古葉村邸、スタートー!」
──海翔くん、テンション高っ……。
常に不機嫌そうだった顔に、はじめて笑みが浮かぶのを見た。
──あんなに嬉しそうな顔して……。演奏するのが、本当に好きなんだろうな。
屈託ない笑顔の海翔くん。
なんとなく、そんな今の彼が本来の海翔くんのような気がする。
「お兄ちゃん、カッコいい!」
「比呂ちゃんもがんばってー!」
美雨ちゃん、流風くんが、楽しそうに手を叩きながら声援を送ってくれる。
その横でマサミチさんも拍手をしながら微笑んでいる。
──あ……なんかこの雰囲気っていいかも……。
決して、ハーモニカが得意なわけじゃない。
だけど、久しぶりに人前で演奏することに、すっかり忘れていた懐かしい喜びがふわりと胸の奥に広がった。
やがて、海翔くんとのセッションがはじまった──
そこへ、着替え終えた海翔くんがやって来る。
「うわ、準備万端。いつの間に?」
「ねえ、お兄ちゃん。なんでノートパソコンまで持ってきたの?」
「ああ、これか? パーカッションの音源がいると思ってさ。美雨、電源つないで」
「うん、わかった!」
──パーカッション……? ますます本格的になってきてる……。
「はい、海翔のギター」
「ああ」
海翔くんは流風くんからギターを受け取り、譜面台に楽譜を置く。
──もしかして……海翔くん、久しぶりに自分のギターを弾きたくなっただけなんじゃあ……。
──わたしとセッションしたいなんて、みんなの憶測にすぎな……
「ハーモニカで吹ける曲にしたから」
振り向きながら、海翔くんがわたしに言った。
「あ……はい……ありがとうございます……」
──そうだよね。甘かった。この流れで吹かないわけにはいかないよね……。
観念してハーモニカをにぎり、海翔くんの隣に行く。
「あれ? あんたどっか調子悪いの? 元気なさそげだけど」
「いえ、別に……」
「さっきまで、さんざん人に食ってかかってたのにな?」
「食って……って、そんなつもりありません。それより、どんな曲ですか。難しいのだと、正直、吹けるかどうか……」
「ずいぶん謙遜するんだな。ハーモニカ持ち歩いてる人間が」
「そ、それは単なる偶然で……」
「大丈夫、大丈夫。ほら、楽譜」
──軽く言ってくれちゃってるけど、ホントに大丈夫かなあ……。
受け取った楽譜を、おそるおそる見てみる。
「無理そうなら、ほかのもあるけど?」
「あ、いえ……大丈夫です」
──これくらいなら、まあ……。
曲調はゆったりしている。
少し練習すれば、わたしでもなんとかなりそうだった。
「じゃ、しばらく自主練タイム。俺、チューニングしとくから」
「は、はい」
調整中のギターの音が響く中、わたしは楽譜を読み、メロディを確かめる。
──それにしても、大ごとになってきちゃったな。
──なんでこんなことに……。
──そもそも、どうして古葉村邸の前に立ってたのか、まったく思い出せな──……えっ!?
気がつけば、流風くんと美雨ちゃん、それにマサミチさんまで、待ちきれないと言わんばかりの表情でわたしと海翔くんを見ている。
──みんな、ソファで前のめりになってる。相当楽しみにしてるみたい。
──と、とにかく、今はこの曲をちゃんと吹くことだけを考えよう……。
いつの間にか、ギターの音がやんでいる。
海翔くんはチューニングを終えたようだった。
「どう? いける?」
「え、ええ……」
わたしの返事に、海翔くんがうなずく。
「じゃ、さっそくはじめるか……」
そして、即席であつらえた観客席のほうを向いた。
「えー、お待たせしましたっ。それではさっそく、ミニライブ in 古葉村邸、スタートー!」
──海翔くん、テンション高っ……。
常に不機嫌そうだった顔に、はじめて笑みが浮かぶのを見た。
──あんなに嬉しそうな顔して……。演奏するのが、本当に好きなんだろうな。
屈託ない笑顔の海翔くん。
なんとなく、そんな今の彼が本来の海翔くんのような気がする。
「お兄ちゃん、カッコいい!」
「比呂ちゃんもがんばってー!」
美雨ちゃん、流風くんが、楽しそうに手を叩きながら声援を送ってくれる。
その横でマサミチさんも拍手をしながら微笑んでいる。
──あ……なんかこの雰囲気っていいかも……。
決して、ハーモニカが得意なわけじゃない。
だけど、久しぶりに人前で演奏することに、すっかり忘れていた懐かしい喜びがふわりと胸の奥に広がった。
やがて、海翔くんとのセッションがはじまった──