夏祭り(3)
文字数 1,446文字
ヨーヨー釣りのあと、わたしたちはたこ焼きを買い、参道の人混みから離れた場所にやって来た。
「この辺りで食おうか」
「うん、そうだね」
木の下にある背もたれのないベンチに、ふたり並んで座った。
手首に下げていたピンクのヨーヨーを、提灯の明かりにかざしてみる。
「このヨーヨー、ホントにかわいい。でも、これを取ったせいで景品、逃しちゃったね。あと1個取れたらもらえたのに」
「景品? ああ、えんぴつと消しゴムのセットな。欲しかった?」
「うーん……別にいらないか」
海翔くんと顔を見合わせ、微笑んだ。
「このヨーヨー1個のほうがずっといい。ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
海翔くんが、ちょっとふざけたように頭を下げる。
あのとき、なんだかんだ言いながらも、海翔くんがヨーヨーを取ってくれた。
たったそれだけのことだけど……
夜店の明かりできらきら光るたくさんのヨーヨーと、腕まくりをした海翔くん。
あの光景を、わたしはずっと忘れないような気がする。
「じゃ、さっそくたこ焼き、食べるとするか」
「うん。あ、そうだ。夜店のお金、海翔くんばっかり出してるよね。割り勘しようよ。いくら使った?」
「いいよ。俺のおごり」
「ううん、ちゃんと払わせて。あと流風くんと美雨ちゃんのおこづかいも半分出すよ」
「は? なんで?」
「ほら、わたし、いちおう海翔くんより年上だし」
「それ、まったく関係ねえし。自分が無収入だってわかってんの?」
「そ……それは……まあ……」
ズバリと言われてしまい、返す言葉もない。
「ムリすんなって」
──我ながら情けないけど……仕方ないか。
「えっと……じゃあ、お言葉に甘えます」
「ああ。めんどくせーし、そうして」
海翔くんはぶっきらぼうに言うと、たこ焼きをパクッと口に放りこむ。
そんな態度が海翔くんの優しさだとはわかっていても、自分の現実に気分が落ちこむ。
──わたし……これからはもう、子どものおこづかい程度のお金も出せないのかな……。
参道のほうから微かに流れてくるざわめきをぼんやりと聞きながら、つい考えこんでしまう。
「早く食べれば?」
たこ焼きを頬ばったまま、海翔くんが言う。
「あ、はい……」
うなずき、いただきます、とひとつ口に入れてみる。
「……ん! 美味しいね!」
「うん、思ったよりウマイな」
熱いたこ焼きをふうふうと冷ましながら、わたしも海翔くんも、あっという間にぜんぶ食べてしまう。
「ごちそうさま。海翔くん、ノド乾かない?なにか飲み物おごらせて。そのくらいなら、わたしでも──」
すると、海翔くんがわたしの言葉をさえぎった。
「俺、払うなって、さっきから言ってんじゃん!」
「か……海翔くん……」
あまりの強い口調に思わず息を飲む。
──……そうだよね。収入のないわたしにそんなことされても、逆に困るか……。
──いい歳して、ホント、情けないな……。
「……ごめん、気を使わせてるね」
わたしがあやまると、海翔くんがムッとする。
「違うって」
「え?」
「そーいうことじゃなくて……。あー、もういい」
ふいっとそっぽを向かれてしまう。