セッション(1)

文字数 842文字



老紳士は古葉村邸のご主人だった。

わたしたちは挨拶を終えると、ソファに腰を下ろした。



「いきなりおじゃましまして、申しわけございません」



すると古葉村さんがニコッと笑う。



「流風から聞きました。あなた、ハーモニカが吹けるんですってね」

「いえ、以前吹いたことがあるだけで、別にうまくもなんともないんです」

「ぜひ聴かせてください。僕も子どもたちも、音楽が大好きなんです」

「は、はい……」


──ホントにハーモニカは趣味レベルなんだけどな……。

──それにしても、古葉村さんって、なんていうんだろう……気品があるっていうか、紳士的っていうか……。



穏やかな微笑み、優雅な立ち振る舞い。



──本物のお金持ちの余裕……? こんな紳士の見本みたいな人が現実にいるなんて。

──骨董品とかも、何気なく普段使いしちゃうんだろうな。

──気が向いたら、海外へ買いに行ったり……。あ、そういえば……。



「あの……お孫さんから、古葉村さんはご旅行中だとうかがってましたが……」

「旅行? ああ、先月、イタリアへ行ってきたんですよ。その話を聞かれたんですね?」

「えっ、先月……?」


──美少女はそんなふうに言ってなかった……。


「子どもの話って、脈絡がありませんからね。流風と美雨に同時にしゃべられると、わたしもいつも混乱しますよ」


──古葉村さん、わたしが流風くんと美雨ちゃんから聞いたと思ってる……。



お互い同じことを話しているはずなのに、海翔さんとも古葉村さんとも、なぜか話がかみあわない。

だけど、今日会ったばかりの人にしつこく質問を重ねるのも気が引ける。



「……あ、先月のお話でしたか。すみません、思い違いをしてました。ところで、本当に素敵なお庭ですね……」



わたしは当たり障りのない話で、その場をごまかした。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み