洋館の朝(3)
文字数 899文字
「お待たせ。みんな、好きなの飲んで」
テーブルの真ん中にペットボトルを置いて、海翔くんがわたしの斜め前の席に座る。
「お、うまそう。じゃ、さっそく」
海翔くんは、いただきますと手を合わせたかと思うと、もうフレンチトーストを頬張っている。
「海翔、さっきフレッシュジュース作るって言ってたのに!」
「なんか面倒になっちゃってさ」
「だまされた。あーあ、ボク、手伝わなきゃよかったな」
「はあ? だまされたって、大げさじゃね?」
「もういいから、みんな早く食べなさい」
「ウソ! こんな時間! まだ髪も結んでないーっ!」
──いつの間にか食卓が大騒ぎになってる……。
みんなが口々にしゃべるその勢いに圧倒されそうだ。
──いつもこういう感じなのかな。でも……楽しいかも……。
にぎやかな朝食なんて、何年ぶりかわからない。
思えばずいぶん長いあいだ、ひとりで暮らしていた。
ずっと、音楽のことだけを考えて……。
「ねえ比呂ちゃん、早く食べてみて」
気がつけば、左隣りの流風くんが期待いっぱいの目でわたしを見ていた。
「う、うん……いただきます」
すすめられるまま、フレンチトーストをひと口食べる。
「ん……! ホントだ! 美味しい!」
柔らかな食感とメイプルシロップの甘さが、口の中にふわっと広がる。
「この子のフレンチトーストは絶品ですからね」
「流風って、これだけは上手だよねー」
マサミチさんと美雨ちゃんが、口々に流風くんをほめている。
「へへっ、まあねー」
「ホント、美味しい! 流風くん、お店出せるかも」
「やったねっ」
わたしの言葉に流風くんが無邪気にピースサインをする。
──大人びたこと言うわりに、こういうかわいいところもあるし……。
──なんだろ……流風くんって、ちょっと不思議な子だな。
普通の子どもとは違う雰囲気を、わたしは流風くんから感じていた。