迷子(3)
文字数 1,033文字
しばらく公園の中をマサミチさんと歩き、
木かげにあるベンチのところまでやって来た。
「よくこのベンチで休憩するんですよ。さ、どうぞ」
「はい……」
わたしが座ると、マサミチさんもゆっくりと腰を下ろしながら、
かぶっていたオシャレな中折れ帽を取った。
「……ああ、いい天気だ」
空を見あげて目を細めたマサミチさんの顔は、なんだか幸せそうにも悲しそうにも見える。
「じつは、僕も流風がいないことを知ったのは今朝なんですよ」
空に目をやったままで、マサミチさんが口を開く。
「えっ、そうなんですか?」
「ええ。置き手紙が僕の机の上にあって……。
今日までありがとうだとか、みんなに元気でと伝えてほしいとか……
さらっと数行書いてあるだけでした」
──たったそれだけなんて……。
「そんなのって……寂しいです……」
「……この日が来るのはわかっていました。こんな感じの別れになるだろうってことも。
でも……そうですね、想像以上に寂しいな」
小さく笑って言い、マサミチさんがわたしを見る。
「比呂さんは、流風がいなくなるのを知っていたんですね?」
「えっ……」
──マサミチさんが気づいてる……? どうして?
「は、はい……。でも、知ったのは昨日の深夜です。流風くんに、突然別れを告げられて……」
疑問に思いながらも、正直に答えた。
「昨日……。やはりそうですか……。流風はそのとき、僕たちと別れることを決めたんだね」
──そのとき……決めた?
「あの……それはどういう意味なんでしょうか」
「流風はたぶん、あなたを助けるためにここにいたんですよ」
「……」
──わたしを……助けるために……。
一瞬、思いもしないことのように感じた。
だけど実際、流風くんがいなければ、わたしはこの世界でどうなっていたかわからない。
古葉村邸の前で、流風くんに出会わなければ……。
──そうだ……。流風くんはわたしを助けてくれたんだ……。
「マサミチさん、教えてください。流風くんのことを……」
わたしが言うと、マサミチさんはうなずいてくれた。
「……かなり昔の話になります」
そう言って話しはじめたのは、マサミチさんが子どもの頃の話だった。