知らせ(2)
文字数 1,716文字
そして、3月になり──
いよいよライブ審査を明日にひかえた、日曜日の昼下がり……
──海翔くん、どこにもいないなあ。
さっきから探しているのに、海翔くんの姿が見あたらない。
──準備のこととか、いろいろ打ち合わせたいんだけど……。
会場が東京ということもあり、海翔くんの応援にはわたしだけが行く予定になっていた。
「ねえ美雨ちゃん、海翔くん見なかった?」
サンルームで読書をしている美雨ちゃんに声をかける。
「お昼ご飯のあと玄関を出るのは見たけど……
どこに行ったかは知らない」
「そう……」
──ずいぶん余裕だな。ライブ審査は明日なのに……。
──仕方ないから、先に自分の準備だけしとこうかな。
「あいつは浜辺に行きましたよ」
後ろでマサミチさんの声がする。
「浜辺……ですか?」
振り向くと、トレイにティーセットをのせたマサミチさんが立っていた。
「あ、マサミチさん、お茶ならわたしが淹れたのに……」
「いいんですよ。いただいたケーキがあるので、比呂さんも一緒にお茶しましょう」
「わ、嬉しい。ありがとうございます」
「マサミチさん。海翔くんはどうして浜辺に?」
紅茶を淹れてくれているマサミチさんに訊いた。
「ただ海を眺めに行っただけだと思いますよ」
マサミチさんが言うと、隣の美雨ちゃんが本を脇に置きながら大げさにため息をつく。
「練習とかしなくていいのかなあ。ちょっと油断してるのかも」
「大丈夫だよ、美雨ちゃん。 海翔くん、これ以上はなにもすることないって感じじゃないのかな?」
「そうそう、比呂さんの言うとおり。僕たちが心配しても仕方ないよ。
さ、ふたりとも紅茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
「いっただきまーす」
それからしばらく、わたしはマサミチさんと美雨ちゃんと一緒に
楽しくおしゃべりしていたけれど……
──海翔くん、まだ帰ってこないな。
つい、そわそわと玄関のほうを見てしまう。
──美雨ちゃんには大丈夫だなんて言ったけど……ホントはちょっと心配。
──ああ見えて海翔くんって、突然なにかの拍子で気弱になるところあるから……。
「比呂さん、どうかしたの?」
マサミチさんに訊かれ、ハッとする。
「えっ、あ、あの……海翔くん……浜辺で寒くないかなって」
「今日は比較的あたたかいですよ」
「でも、上着くらい持って行ってあげたほうがいいような……」
「お兄ちゃん、ちゃんとコート着てたよ」
「そ、そう。あ、じゃあマフラーでも……」
「比呂ちゃん、心配しすぎ。今日はポカポカだから、いらないって」
「……うん」
美雨ちゃんのごもっともなコメントに、ほかに言うことも思いつかない。
──もう……海翔くん、いつまで出歩いてるつもりなんだろう……。
黙って紅茶を飲んでいると、マサミチさんと美雨ちゃんがクスクス笑いだす。
「な……なんでしょうか?」
「海翔のところへ行ってきていいですよ」
「えっ!」
マサミチさんの言葉に思わずカップを落としそうになる。
「ついでに、お兄ちゃんとデートしてきたら?」
美雨ちゃんまで、ニコニコしながらそんなことを言う。
「マサミチさん……美雨ちゃん……」
──からかわれてる……。
わたしたちが付きあっているのは、お手伝いさんを含め、古葉村邸のみんなにバレている。
だけどそれはそれとして、オーディションが終わるまでは、
今のままで過ごそうという暗黙のルールもできあがっていた。
──でも最近、こうやってよくふたりにからかわれる。
──かなり恥ずかしいな……。
「えーっと……じゃあ、ちょっとだけ行ってきますね」
赤くなった顔をなるべく見られないようにしながら、
そそくさと椅子から立ちあがった。
いよいよライブ審査を明日にひかえた、日曜日の昼下がり……
──海翔くん、どこにもいないなあ。
さっきから探しているのに、海翔くんの姿が見あたらない。
──準備のこととか、いろいろ打ち合わせたいんだけど……。
会場が東京ということもあり、海翔くんの応援にはわたしだけが行く予定になっていた。
「ねえ美雨ちゃん、海翔くん見なかった?」
サンルームで読書をしている美雨ちゃんに声をかける。
「お昼ご飯のあと玄関を出るのは見たけど……
どこに行ったかは知らない」
「そう……」
──ずいぶん余裕だな。ライブ審査は明日なのに……。
──仕方ないから、先に自分の準備だけしとこうかな。
「あいつは浜辺に行きましたよ」
後ろでマサミチさんの声がする。
「浜辺……ですか?」
振り向くと、トレイにティーセットをのせたマサミチさんが立っていた。
「あ、マサミチさん、お茶ならわたしが淹れたのに……」
「いいんですよ。いただいたケーキがあるので、比呂さんも一緒にお茶しましょう」
「わ、嬉しい。ありがとうございます」
「マサミチさん。海翔くんはどうして浜辺に?」
紅茶を淹れてくれているマサミチさんに訊いた。
「ただ海を眺めに行っただけだと思いますよ」
マサミチさんが言うと、隣の美雨ちゃんが本を脇に置きながら大げさにため息をつく。
「練習とかしなくていいのかなあ。ちょっと油断してるのかも」
「大丈夫だよ、美雨ちゃん。 海翔くん、これ以上はなにもすることないって感じじゃないのかな?」
「そうそう、比呂さんの言うとおり。僕たちが心配しても仕方ないよ。
さ、ふたりとも紅茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
「いっただきまーす」
それからしばらく、わたしはマサミチさんと美雨ちゃんと一緒に
楽しくおしゃべりしていたけれど……
──海翔くん、まだ帰ってこないな。
つい、そわそわと玄関のほうを見てしまう。
──美雨ちゃんには大丈夫だなんて言ったけど……ホントはちょっと心配。
──ああ見えて海翔くんって、突然なにかの拍子で気弱になるところあるから……。
「比呂さん、どうかしたの?」
マサミチさんに訊かれ、ハッとする。
「えっ、あ、あの……海翔くん……浜辺で寒くないかなって」
「今日は比較的あたたかいですよ」
「でも、上着くらい持って行ってあげたほうがいいような……」
「お兄ちゃん、ちゃんとコート着てたよ」
「そ、そう。あ、じゃあマフラーでも……」
「比呂ちゃん、心配しすぎ。今日はポカポカだから、いらないって」
「……うん」
美雨ちゃんのごもっともなコメントに、ほかに言うことも思いつかない。
──もう……海翔くん、いつまで出歩いてるつもりなんだろう……。
黙って紅茶を飲んでいると、マサミチさんと美雨ちゃんがクスクス笑いだす。
「な……なんでしょうか?」
「海翔のところへ行ってきていいですよ」
「えっ!」
マサミチさんの言葉に思わずカップを落としそうになる。
「ついでに、お兄ちゃんとデートしてきたら?」
美雨ちゃんまで、ニコニコしながらそんなことを言う。
「マサミチさん……美雨ちゃん……」
──からかわれてる……。
わたしたちが付きあっているのは、お手伝いさんを含め、古葉村邸のみんなにバレている。
だけどそれはそれとして、オーディションが終わるまでは、
今のままで過ごそうという暗黙のルールもできあがっていた。
──でも最近、こうやってよくふたりにからかわれる。
──かなり恥ずかしいな……。
「えーっと……じゃあ、ちょっとだけ行ってきますね」
赤くなった顔をなるべく見られないようにしながら、
そそくさと椅子から立ちあがった。