出会い(5)

文字数 1,318文字

客間にやって来ると、男の子が、あれっと声をあげる。



「そういえばお姉さん、なんていう名前?」

「えっ? あ、わたし──」

「なんだよ、知り合いじゃなかったのか?」



海翔さんがあきれた声で言う。



「知り合いだけど、名前はまだ知らないんだ」

「えーっ、じゃあ、自己紹介しなきゃ。みんな、ソファに座って!」



女の子がテキパキと指示を出す。



「合コンって、女子は女子、男子は男子で座るんだよね?」

──ご、合コン?

「お前、意味わかってんのか?」

「合コンか……ボク、はじめてだ」



男の子がなにやらしみじみとした様子でつぶやいている。



「はいはい、とにかく着席!」



結局、女の子の言うとおりにテーブルをはさんで男女にわかれて座った。

さっそく男の子と女の子が競いあうように自己紹介をはじめる。



「ボクは小川流風(おがわ るか)。で、その子は古葉村──」

「ちょっと、自分で言う! わたしは古葉村美雨(こはむら みう)です。流風と同じ10歳です。よろしくお願いします!」

「はい、こちらこそ……!」


──流風くんと美雨ちゃん……。ふたりともかわいいな。

──あ、でも苗字が違う。ふたりは兄弟じゃなかったんだ。


「ほら、海翔も!」



流風くんが隣の海翔さんの服を引っぱる。



「ん……? なんだっけ?」

「なにボーッとしてんの?」

「ちょっとな。いいこと思いついたんだ」



海翔さんはそう言うと立ちあがり、行こうとする。



「お兄ちゃん! 自己紹介!」



美雨ちゃんがテーブルに身を乗りだし、あわてて引きとめる。



「わかったよ……古葉村海翔。これでいいよな? でもこの人、もう俺の名前なんか知ってるんじゃね?」

「は……はい、なんとなく……」

「こっちもあんたの名前、わかってるしさ」



海翔さんはそう言うと、さっさと部屋を出て行ってしまった。



──そっけないっていうか……。

──恐ろしいまでのマイペースだ……。


「あの、どうしてお兄ちゃんはお姉さんの名前、知ってるんですか?」



美雨ちゃんがキョトンとしている。



「ああ、さっきちょっとご挨拶したの。そうだ、流風くんと美雨ちゃんにもあげるね」



わたしは名刺をバッグから取り出した。



「瀬口比呂です。よろしく」



ふたりは受け取った名刺をまじまじと見つめる。



「へえ、お姉さんって骨董屋さんなんだ」



感心したように流風くんが言う。

そして、裏面の店の紹介まできちんと目を通す。

一方で美雨ちゃんは、



「名刺、もらっちゃった! すごい! 大人みたい!」



とはしゃいでいる。



──同じ年で仲も良さそうだけど、性格はまったく違うんだなあ。

──それにしても、美雨ちゃん……この子、やっぱり前にも見たことがあるような気がする。

──今どきの子役ってあんまり知らないけど……きっとテレビによく出る誰かに似てるんだろうな。



そんなことを思いながら、無邪気に喜んでいる美雨ちゃんの横顔を眺めていた。


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