腕時計(3)

文字数 891文字

「あれっ、ふたりでお茶してんの?」

「お、おかえりなさい、海翔くん……」

「ただいま。お、ウマそうなもんがある」



海翔くんはテーブルのところにやって来て、お茶受けのクッキーをひとつ口に放りこむ。



「こら、手は洗ったのか?」



マサミチさんがあきれたように言う。



「なんだよ、小学生じゃねえんだから」

「だったら、小学生に言うようなことを言わせるんじゃない」

「めんどくせーし。俺がいない間に、じいさん、ぜんぶ食うつもりじゃないの?」

「そんなわけないだろ」


──ホント、小学生みたい……。



ふたりの会話がおかしくて、笑いそうになるのをやっとこらえる。



「俺がもどってくるまで、ひとつも食うなよな?」



なんだかんだ言いながらも、海翔くんは素直に洗面所へ向かおうとする。



「じゃあ、海翔くんの紅茶も淹れるね」



わたしは立ちあがり、海翔くんとサンルームを出た。



「比呂、ちょっと待って」



キッチンへ行こうとしたとき、海翔くんに呼びとめられる。



「あ、はい? なに?」

「このあとなんだけど……」

「うん、作曲するんでしょ? お夕飯の支度までしか手伝えないけどいい?」

「いや、そうじゃなくてさ……。今日、神社に屋台が出るんだ」

「知ってる、お祭りがあるんだよね。美雨ちゃんが友だちと行くんだって。流風くんも一緒だよ」

「……そう」



海翔くんはなんとなくそわそわしていて、天井を見あげたり、首の後ろに手をやったりと落ち着きがない。



──どうしたんだろう……。


「海翔くん。わたし紅茶淹れてくるから、海翔くんも手を洗いに──」

「俺たちも……行かない?」

「え」

「神社のお祭り……一緒に」

「お祭り……一緒に……」



ポカンとおうむ返しに言う。



──つまり……今、わたし、誘われてるってこと……!?


「たまには……そんなのもありかなって」



不機嫌そうな顔でポケットに手を突っこんでいる海翔くんの横顔を、わたしはまじまじと見つめてしまっていた……。


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