セッション(6)

文字数 1,210文字

セッションは予想以上の盛りあがりだった。

結局ほかにも数曲演奏して、最後の曲が終わり……


「お兄ちゃんも比呂ちゃんも最高!」

「うん、ボクも楽しかったよ」

「おふたりさん、息もぴったりだったね」


美雨ちゃんも流風くんもマサミチさんも、みんな拍手をしながら立ちあがる。


「みなさん、ありがとうございます」


ホッとして、身体中が達成感でいっぱいになる。


──この感じ、ホントに久しぶり……!


3人だけのスタンディングオベーション。

だけど今のわたしには、それが言葉にできないくらい嬉しかった。


「お疲れさん」


海翔くんがギターを下ろしながら、わたしに言う。


「うん……!」


気がつけば、お互い笑顔でハイタッチをしていた。


「しっかし、まいったよな。アンコール、永遠に終わらねぇかと思った」

「ははっ、そうだね」



──セッションしてみてわかったけど、海翔くんって意外と親しみやすい子なんだな。

──それに、音楽の才能がすごい……。


セッションでの彼を思い返していると、美雨ちゃんと流風くんがかけ寄ってくる。


「お兄ちゃんたちの演奏、また聞きたーい!」

「海翔のギター、今日はいつもの頼りない感じがあんまりなくてカッコよかったよ。比呂ちゃんのハーモニカのおかげだね」

「流風。今、なに言った?」

「え、ムッとしてる? ボク、ほめたのに」

「言葉にトゲがあんだよ。ったく、ガキのクセに生意気な」

「こら、せっかくの演奏のあとにケンカするんじゃない」


マサミチさんが、笑いながら海翔くんと流風くんをたしなめる。


「楽しい素敵な時間だったよ。でも、比呂さんは慣れない場所で疲れたんじゃないのかな?」

「いえ、全然。わたしのほうこそ楽しかったです。みなさん、本当にありがとうございました」

「それにしてもさあ……。お兄ちゃんと流風って、どうしてケンカになるのかなあ。変だよね。9つも年が離れてるのに」


美雨ちゃんが、あきれた顔でふたりを見る。


「はあ? 美雨まで上から目線かよ」


ふてくされたように海翔くんが腕組みをすると、みんないっせいに笑った。


──なんかおもしろい……。この家の人たちって、いつもこんな調子なのかな。

わたしもつい笑っていると、「今、お茶を淹れてきますよ」とマサミチさんが部屋を出て行こうとする。


「あ、いえ。わたし、そろそろ、おいとましますので……」

「えーっ、比呂ちゃん、帰っちゃうの?」

「ボク、もっといてほしいな」


ふたりが名残惜しそうに言ってくれる。


「ごめんね……」


いきなりやって来て長居するのも気が引ける。

それに、家にもどって落ち着きたい気持ちもある。

わたしはお礼を言い、マサミチさんたちに帰ることを告げた。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み