ピアノ(3)

文字数 743文字

「……どうだった?」



ギターを弾き終えた海翔くんが訊く。



「う、うん……よかったよ」



わたしは目をそらしながら言った。

驚きで、まともに海翔くんの顔が見られない。



『そのオルゴールの曲は、兄の人生を決めた大切な曲です』

『……もしも、この曲がなかったら……デビューはどうなっていたか……』



美雨ちゃんの言葉がよみがえる。



──今作っている曲がきっかけで、海翔くんはデビューするんだ……。



海翔くんがギターで弾いた曲は、オルゴールで聞いたものとはまだ違うところも多い。

それに、歌詞もできてはいない。

だけど、この曲を作っているということは、海翔くんは少しずつ……確実にデビューに近づいている。



「しかめっ面だけど……なんで?」



海翔くんが不満そうに言う。



「そ……想像以上の曲だったから、ちょっとびっくりしたんだ。とってもいい曲だと思う……。でも……」

「でも、なに?」

「わたし……海翔くんとは……組めない」



すると海翔くんは大きなため息をつく。

そして、黙りこんでしまった。



──やっと、あきらめてくれたのかな。

──悪いなとは思うけど、仕方ないよね……。



手のひらが汗ばむような沈黙が続く。

だけど──



「マジ、比呂ってガンコだよ。ま、俺も負けないけどね」



自信に満ちた瞳がわたしをとらえる。



「え……あきらめてくれたんじゃあ──」

「まさか。俺が比呂をあきらめるわけないし」

「そ、そんなこと言われても……」



返す言葉が、しどろもどろになってしまう。



まっすぐな強い目線を向けられているせいなのか……

胸の奥が微かに痛むような音を立てた──。

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