消えた部屋(6)

文字数 597文字

2階の窓からは、庭の黒い木立が風にさわさわと揺れているのが見える。



──これからどうしたらいいのかな……。



考えるべきことが山ほどあるのに、ついぼんやりしてしまう。

とにかく疲れ果てていて、頭の芯がじんと鈍く痛む。

そのとき、部屋にノックの音が響く。



「は、はい……!」


──誰かな……。



ドアを開けると海翔くんが立っていた。



「着替え。俺が昔着てたスウェットで悪いけど」

「ありがとう……」



グレーのスウェットスーツを受け取り顔をあげると、かたい表情でわたしを見おろす海翔くんと間近で目があった。



「正直……まだあんたのこと、信じきれてない」

「……」

「言い方が悪いかもしんないけど、なにか魂胆があって、俺たちを騙そうとしてんじゃないかって……」

「うん……そんなふうに思われても仕方ないよ」

「……だけど、あんたがウソをついてるとも思えない」


「え……」

「正直、混乱してる」

「海翔くん……」

「とにかく、話を聞かせてもらうのは明日にする。……おやすみ」

「おやすみなさい……」



海翔くんが廊下を行き、自分の部屋へ入るのを見とどけてから、ドアを閉める。



──明日……か……。



海翔くんの言う、『明日』がどうなるのか、想像もつかない。

今のわたしは、先のことをなにひとつ考えられなかった──。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み