消えた部屋(1)
文字数 971文字
わたしたちはアパートの前までやって来た。
「海翔くん、今日はどうもありがとう」
「気が向いたらまたハーモニカ吹きにきてよ。美雨と流風も喜ぶし。ああ、あとじいさんも」
「うん……」
そのとき、海翔くんの顔を照らす明かりがチラチラと揺れているのに気づいた。
街灯が切れかかり、弱々しい光が点滅をくり返している。
──えっ……? 昨日はこんなんじゃなかった。
──ちゃんと明かりはついていて……。
たったそれだけのことだった。
さして珍しくもない、ありふれた光景……。
だけど、蛍光灯のくり返す点滅が、わたしをだんだん不安にさせる。
──やっぱり変だ……。
──なにかが……なにかが、これまでと違う……。
思い過ごしで済ませようとしていた違和感が、あふれだしてくる。
──わたし……ちゃんと知りたい。
「海翔くん……」
「なに?」
「海翔くんの家に……高校生なんていないって言ったでしょ?」
「ああ」
「それって、本当──」
その瞬間──
──ウソ……。
アパートの2階が視界に入り、思わず息を飲む。
わたしの部屋のドアが開き、見知らぬ女性が廊下に出てきた。
──あの人、誰……?
ルームウェアのようなラフな服装。
廊下から響くサンダルの足音。
まるで、自分の部屋からちょっとコンビニへ行くみたいな様子だった。
──これって……なにか悪い夢……?
女性はショートパンツの後ろポケットに鍵を突っこみながら階段を降りてくる。
そして、こちらも見ずに、わたしたちの横をのんびり通りすぎた。
──いったい、どういうこと……。
「あんた、なんか顔色悪いみたいだけど……」
心配そうに海翔くんが言う。
「知らない人が……さっきの女の人、わたしの部屋から出てきた……」
やっとの思いで喉から声をしぼり出す。
「なっ……?」
さっと海翔くんの表情が変わる。
「まさか……泥棒!?」
「だ、だけど……なにかおかしい……ずっと、なにかがおかしいの……!」
叫ぶと同時に、わたしは階段へと駆けだした。