洋館の朝(2)

文字数 1,781文字

「比呂ちゃん!」



マサミチさんと一緒に食堂へ入ったとたん、美雨ちゃんがかけ寄ってくる。



「おはよう、美雨ちゃん」

「ねえ、流風から聞いたけど、比呂ちゃんってずっとこの家にいてくれるの!?」

「は、はい?」


──わたしが……この家に?



意味がわからず、キョトンとしてしまう。



「ああ、お伝えするのを忘れていました」



マサミチさんが、のんきな調子で言う。



「比呂さん。あなた当分ここに住んだらいいですよ」

「なっ……? マサミチさん?」

「アパートの修繕工事もすぐには終わらないでしょうし」

「しゅ、修繕工事?」

「流風から聞きましたよ」

──流風くん、またそんな作り話を……。


「でっ、でもっ、そこまでご厚意には甘えられないです!」

「細かいことは気にしなくていいから」

「いや、決して細かいことじゃあ……」



そこへ、食事の乗ったワゴンを押しながら流風くんが入ってくる。



「朝ごはんできたよー。あれ? なんでみんな立ってるの? 早く席についてよ」



流風くんは言いながら、テーブルにテキパキと朝食を並べる。



「あ、流風くん、わたしも手伝うよ」

「大丈夫。ボク、慣れてるし。比呂ちゃんは座ってて」

「そう……?」


──もしかして流風くんが作ったとか? 朝はお手伝いさんがいないのかな。


「比呂ちゃん、流風にまかせておいていいの。毎日、当番でやってるから」

「えっ?」

「うん。朝ごはんは、ボクと美雨と海翔の3人で順番に作ることになってるんだ」


──へえ……当番制なんだ。


「なにもかも人にやってもらうのも、子どもたちにとってよくないと思いましてね」

「そうなんですね」

「さ、わたしたちは座って待ってましょう」

「あ、はい……」


──マサミチさん、子どもたちのために、いろいろ考えてるんだな。



感心しながらテーブルにつくと、あれっと隣の席で美雨ちゃんが首をかしげる。



「でも、今日はお兄ちゃんが当番じゃなかった?」

「海翔、寝坊してさ。だから、ボクが手伝ってるってわけ」

「また寝坊か。あいつは仕方がないなあ」

「でもね、おじいちゃん」



美雨ちゃんがテーブルに身を乗りだして言う。



「わたしたち、働きすぎだと思う」

「働きすぎ? 美雨たちが?」

「うん。お手伝いさんにやってもらってることって、週に3回、夕ご飯作ってもらうだけじゃない……あとはぜーんぶ、わたしたち……って、仕事多すぎ!」


──じゃあ、昨日はたまたまお手伝いさんのいる日だったんだ。

──お手伝いさんが何人も住みこんでるのかと思ってた。

──ちょっと意外……。


「庭の手入れは僕の担当じゃないか。それに掃除は自分たちの部屋以外、お手伝いさんがやってくれてるだろ?」

「う……うん、でも……」



しどろもどろになる美羽ちゃんに、マサミチさんは笑いかけながら言う。



「ぜーんぶ、なんて大げさだよ」

「そうだよ。美雨はもっと自分で自分のことやったほうがいいよ」

「やってるもん!」

「こないだ、お手伝いさんに宿題を手伝ってもらってたよね。知ってるよー」



流風くんの言葉に、美雨ちゃんがパッと顔を赤らめる。



「えっ! ちょっと、流風!」

「美雨、それはよくないなあ」



マサミチさんが、からかい半分に言う。



「あ、あのときは、時間がなくて……」



美雨ちゃんはボソボソとつぶやくと、決まり悪そうに黙ってしまう。



「お手伝いさんまかせより、ボクはこのほうがいいけどな。いろいろ自分で好きにできるから」



流風くんが、手際よく5人分のフレンチトーストを並べ終える。



「わ、美味しそう……」



カフェで出されてもおかしくない出来栄えに思わず言うと、流風くんは自慢げな顔をする。


「ボクの得意料理だからね」

「すごい……!」


──流風くんって、器用なんだな。それに口も達者だし……。

──美雨ちゃんもしっかりしてるけど、流風くんはとても10歳とは思えないくらい。

──相当、頭のいい子なのかもしれないな。



そこへ、海翔くんがペットボトルを数本抱えて入ってくる。


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