新しい生活(1)
文字数 884文字
数日後──
明け方に二度寝をし、うっかりそのまま眠りこんでしまった。
──やたら明るい……。何時なんだろう……?
ぼんやり部屋の壁時計に目をやると、お昼をとっくに過ぎていた。
──ずっと寝てたってこと? ウソでしょ?
ひょっとして時計が壊れてるんじゃないかとうたぐってしまう。
だけど、もちろんそんなはずもなく……。
──なんでそんなに寝られるかな。信じらんない。
──自堕落。これこそ自堕落だ……。
引越しをしてからこの数日、どこも行かずに引きこもっていた。
その結果、好きに寝て好きに起きる生活が、身体にすっかり染みついてしまっている。
バイトとレッスンに明け暮れていた頃は、そんな生活がどれほど幸せかと思っていた。
だけど、実際にそうなってみると幸せな気持ちでいられたのはほんの短い間だけ。
あとはもう、動くのも嫌になるようなダルさだけしか感じない。
──今日はなにしよう……。
しんとした部屋でひとり天井を見あげる。
アパートの両隣は空室で、下の住人はほとんど部屋にいないらしく、毎日気が遠くなるくらい静かだ。
その静けさの中で、ぐーっとお腹がむなしくも盛大な音を立てる。
──あー……なんか買ってこないと……。
ここ数日で、非常食にと買い置きしていたカップ麺もレトルトカレーも、ぜんぶ底をついている。
食べものは食べるとなくなるという現実。
なにも食べなければお腹がすくという現実。
今までは意識もしていなかった、そんな避けようのないあれこれ。
──このままじゃ、ダメだよね……。
勢いをつけて、えいっと身体を起こした。
──貯金だって、そんなにないんだし……。そろそろ仕事、見つけなきゃ。
遅まきながら、先のばしにしていたバイト探しをはじめる決意をする。
──よし、新生活のスタートだ……!
わたしは立ちあがり、思い切り大きく伸びをした。