夏祭り(1)
文字数 1,992文字
陽の落ちかけた頃……
美雨ちゃん、流風くん、そして海翔くんと、近所の神社へやって来た。
──美雨ちゃんと流風くんが友だちと会うまでは4人で行動するけど……そのあとは海翔くんとふたりきりだ……。
──なんか緊張するな……。でも、なんで……?
「比呂ちゃん、見て! おもしろそうなお店がいっぱい!」
美雨ちゃんが嬉しそうにわたしの服を引っぱる。
「えっ……あ、ホントだね!」
金魚すくい、ヨーヨー釣り、かき氷にわたあめ……。
子どもが大喜びしそうな夜店がずらりと並び、たくさんの提灯があかあかと輝いている。
──神社のお祭りなんて、久しぶりだな。
美雨ちゃんと一緒に、わたしまできょろきょろ辺りを見まわしていると……
「待ち合わせは御神木の前だっけ。時間は……うん、まだ大丈夫」
いつもと変わらない様子の流風くんが、腕時計に目を落とす。
──れ、冷静な……。流風くん、この雰囲気でも別にテンションあがんないんだ……。
「……あ、そうだ」
流風くんがハタと気がついたように言い、右手を海翔くんに差し出した。
「夜店でなんか買いたいから、おこづかいちょうだい」
「は? なんで俺が。じいさんからもらっただろ?」
海翔くんがジロッと流風くんをにらむ。
「足りなくなるかもしれないし」
「なにワガママ言ってんだ、このガキ──」
「流風だけずるいー! わたしもちょうだーい!」
美雨ちゃんがぶら下がるようにして、海翔くんの腕を引く。
「おいっ、誰もやるとは言ってないだろっ」
「海翔ってさ、今日は給料日だったんでしょ?」
「なっ!?」
「え! お兄ちゃん、そうなの!?」
「ま、まあ……でも、なんで流風が知ってんだよ!?」
「毎月のことだもん。同じ家に暮らしてたら、そのくらいわかって当たり前だよ」
「こいつ、油断も隙もない……」
「お兄ちゃん、ちょーだーい!」
「海翔、たまにはいいじゃん」
「あー、もうお前らうるせー!」
いつものドタバタがはじまり、このままじゃおさまりそうにない。
──ま、せっかくのお祭りなんだし。ここは年長者のわたしが……。
「わかった、わかった。今日のところは、わたしからおこづかいを……」
だけど、財布をバッグから出そうとしたとき、海翔くんが怒ったような声で言う。
「比呂はいい」
「え、どうして?」
「俺、給料日だからな」
「お兄ちゃん、くれるの? やったーっ!」
「海翔、カッコいいじゃん」
流風くんと美雨ちゃんが満面の笑みを浮かべる。
「お前ら、ムダづかいするなよ。ぜんぶ使い切らなくていいんだからな。わかったな?」
うんうんとうなずきながら、流風くんと美雨ちゃんが海翔くんからおこづかいを受け取る。
「わーい、一千万円!」
美雨ちゃんがバンザイをする。
「ありがとう、海翔」
流風くんは早々とお金をしまい、
「じゃあ、ボクたち行くね」
と、わたしと海翔くんを交互に見る。
「流風? まだ待ち合わせの時間じゃないよ」
キョトンとして美雨ちゃんが言う。
「そうだよ。時間まで一緒に、お店まわろうよ?」
わたしが言っても、流風くんは首を横に振る。
「遠慮しとくよ。ふたりのお邪魔したくないし」
──お、お邪魔……?
「ちょ、流風くん、な、なに言ってんの!?」
「ったく、ワケわかんねえし!」
わたしと海翔くんは、ほとんど同時に流風くんに詰めよった。
「お邪魔って? ……ああ、そっか」
美雨ちゃんが天使にも小悪魔にも見える、意味深な笑みを浮かべる。
「じゃあ、ここで解散だねっ! お兄ちゃん、比呂ちゃん、バイバーイ!」
「ふたりでお祭り楽しんでね!」
「おい、お前らっ!?」
あっという間に、美雨ちゃんと流風くんは走り去ってしまった。
──う……。こんなに早くふたりきりになるとは思ってなかった……。
「こ……子どもって元気だね」
「そうだな……」
「夜店でなに買うんだろうね」
「さあ……」
大した意味もないやり取りのあと、なんとも気まずい沈黙が降りてくる。
──なにかしゃべらないと……。
──変だな。いつもなら、考えなくても普通にいろいろしゃべれるのに……。
額に手を当て、悩んでいると……
「とりあえず……行くか」
海翔くんがわたしを見る。
「う、うん……」
にぎやかな参道を歩きはじめた海翔くんに、おずおずとついて行った。