ハーヴ(3)
文字数 898文字
「あ、また問い合わせの電話みたい。今日は朝から多いわね……ごめんなさい、ちょっと待ってて」
「は、はい……」
ルミ子さんのふわりとした雰囲気が心もとなくて、電話を受けに行くその後ろ姿から目が離せない。
──息子さんがもどるまで大丈夫かな……。やっぱり心配だ……。
とはいえ、わたしがどうこうできる問題でもなく……。
──まあ……なんとかなるよね、たぶん。
無理やりそう思いこもうとしたときだった。
「オレ? オレって……ああ、テツヤ?」
受話器を手に、ルミ子さんがはずんだ声を出す。
「今どこなの? え、お金がいる?」
──お金? 息子さん?
「いったいいくら……そんなに? なにがあったの? それに、日本に帰ってきてるなんて全然知らなかった」
おっとりと、だけど真面目にルミ子さんは言葉を返している。
「そう……とにかく振り込めばいいのね。今、メモするから」
電話台の前で復唱しながら、ルミ子さんが口座番号らしき数字をメモ用紙に書きつける……。
その様子に、心臓が嫌な音を立てはじめた。
──なんか……なんかこれって、おかしい……!
「ルミ子さん! 」
気がつけば、わたしは椅子から立ちあがっていた。
「ちょっと電話、代わってください!」
ルミ子さんのそばへ行き、返事も待たずに受話器を取る。
「お電話代わりました。わっ、わたし、ここの従業員ですがっ──」
そう言ったとたん、電話は切れてしまった。
──やっぱり……詐欺だったんだ。
ぞっとして、冷たい汗が流れる。
「電話、切れちゃった?」
戸惑った目で、ルミ子さんがわたしを見あげる。
「ルミ子さん、たぶん今のは振り込め詐欺です」
「え……!」
「息子さんに確かめた方がいいですよ」
「……わかったわ。メールしてみる」
ルミ子さんはコクリとうなずき、スカートのポケットからスマホを取り出した。