出会い(4)

文字数 1,525文字




「ただいま!」



入ってきたのは、小学生の女の子だった。



学校の工作で作ったらしい厚紙でできた大きなお面を抱えている。



「あ、お客さま……?」



女の子は驚き顔で、パッと目を見開いた。

だけど、すぐに礼儀正しく頭を下げる。



「こんにちは。はじめまして」

「はじめまして……」


──しっかりした子だな。

──それに、とってもかわいい……っていうか、きれい……。



人目をひく、整った顔立ちは大人びていて、ランドセルと子どもらしいレモンイエローのパーカーが不似合いなくらいだ。



──ん? この子、どこかで会ったような気がする……。

──もしかすると誰か芸能人に似てるのかも。



「お姉さん、タオル持って来たよ」



男の子が元気に走ってきて、わたしにふわりとタオルをかける。



「あ、ありがとう……」



そんなわたしたちを男が不思議そうに見る。



「ふたり、知り合い?」

「そうだよ。あれっ、海翔はなんでびしょぬれになってんの?」



海翔(かいと)と呼ばれた男は、湿った髪をめんどくさそうにかきあげる。



「雨にぬれた。俺にもタオル持ってきて」

「やだよ。自分で行ってよ」

「ケチくさいこと言うなよな」

「ボクのどこがケチなわけ?」

「ガキは黙って年上の命令をきけ」

「……海翔って、どうして論理的に話せないのかな」

「はあ? お前、ほんっと腹たつ……!」



ポンポン言い合うふたりの会話はなかなか終わりそうにない。



「もう、お客さまがいるのに……」



女の子があきれたようなため息をつく。



「すみません、みっともないところをお見せして」

「い、いえ……」


──ホント、しっかりした子。わたしのほうが負けそう……。

──えーっと、海翔さん……だっけ。

──呼び捨てにされてるけど、たぶんこの子たちのお兄さんだよね……。


──あの美少女も入れると4人兄弟? 

──あ、違う。東京にもお兄さんがいるんだ。

──古葉村家って、大家族……なのかな?



はじめてここを訪れたときの静けさと今のにぎやかさが、あまりにもかけ離れているような気がする。



「ねえ、お客さまにあがってもらわないの?」



女の子がお説教でもするように、ふたりに向かって言う。



「あ、そうだね。お姉さん、ごめんね」

「う、ううん……」

「結局さ、どういう知り合いなわけ?」



海翔さんの質問にかまわず、男の子がパチンと手を叩く。



「そうだ、ふたりもおいでよ。これからお姉さんがハーモニカの演奏会をしてくれるんだ」

「え!? 演奏会!?」



わたしは思わず叫んでいた。


──いつの間にそんな話に!?



「おじいちゃんも聴きたいって。ふたりも一緒においでよ」



──ウソ、古葉村邸のご主人まで!?



「ちょ、ちょっと待って! わたし、そんなに上手じゃないし……!」



あわてて言ったけれど、気がつけば、海翔さんと女の子の目はきらきらと光り、わたしを見つめている。



「へえ……あんた、音楽やるんだ?」

「聞きたいです! ハーモニカ!」

「え……?」



よほどの音楽好きなのか、ふたりは好奇心いっぱいの顔で、じりじりとわたしに近づいてくる。



「あのっ、そんな期待の目で見られると、ものすごく困る──」

「ほら、みんなで行こっ!」


男の子に背中を押され、わたしはそのまま洋館の奥へ入っていった──。
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