出会い(2)

文字数 1,323文字

「マジで……誰?」



男がいっそう訝しげな目でわたしを見る。



──怪しまれて当然だ……。でも、このまま立ち去ったらますます怪しい人になる。



そう思い、急いでバッグから名刺を取り出した。



「わたし……先日、骨董品の鑑定にうかがった者です」



男は名刺を受け取ると、ふうんと首をかしげる。



「あんた、瀬口比呂っていうの?」

「瀬口? ああ、は、はい、瀬口です」


一瞬、ポカンとしてしまい、変に思われたかもと不安になる。


「じいさん、なに売るつもりなんだ?」



──じいさん……? あ、古葉村邸のご主人かな。



「いえ、お会いしたのはお孫さんで……」

「は? じいさんには会ってないの?」

「今、ご旅行中ですよね?」

「旅行? なにそれ? で、孫って?」


「こ、高校生の……」

「高校生? ウチには高校生なんていないし」

「え……」


──ウソ……話が全然かみあわない……。


「あの……あなた、本当にここの家の方なんですか?」

「あたり前だろ。さっき家から出てきたの見なかった?」

「でも、そうだったとしても──」

「は? そうだったとしても?」



──しまった。噛みついてる場合じゃない。

──どう考えたって、わたしのほうが不利だ。



「えーっと、な、なんかいろいろ勘違いしていたようで……。

ご迷惑おかけしました……! すみません、失礼します!」



頭を下げ、大あわてで立ち去ろうとしたときだった。



「あんたさ」



後ろから男に呼びとめられる。



「は、はい……?」


──な、なに? ま、まさか警察呼ぶ……とか言わないよね?



びくびくしながら振りかえる。

すると、男はさも不思議そうな顔で口を開く。



「どっかからここに来たんだろ? なんで傘さしてないんだ?」

「は……あ?」



ひどくのんきな調子で言われ、力が抜ける。



「あ、あなたの方こそ。ご自宅にいたんですよね? 雨が降ってるのくらい、し、知ってるはずじゃないですか」

「知ってたけど。夏だからぬれてもすぐ乾くし、別にいっかって。基本、傘より俺のほうが体温高いから乾きやすい」

「……」



男はそんなの当然だろ、という顔をしている。



──筋が通っているような、意味不明なような……。わけわかんないや。

──とにかく変わった人。あんまりかかわらないほうがよさそう……。



怪しい行動をしている自分のことを棚にあげて、そろそろと後ずさる。



「じゃあ、わたし、この辺で……」

「でさ、結局、骨董屋さんはウチになんの用だったの?」



男に訊かれたけれど、思い切り首を横に振る。



「いや、いいです、いいです! また出直します!」

「あ、そ」

──え。



拍子抜けするくらい、あっさりと言われた。

男は門を閉め、お天気雨の中をそのまま洋館へもどって行く。



──呼びとめるくらいだから、もう少し食い下がるのかと思ったら……。

──ずいぶんマイペースだな……。



洋館に入る男を、わたしは唖然と見つめていた──。
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