ふたりの未来(2)
文字数 1,457文字
部屋で出かける支度をしていると、ふとチェストの上にあるハーモニカが目に入る。
──ルミ子さんからもらったハーモニカ……。
チェストのところへ行き、ハーモニカを手に取る。
──広い場所で吹いたら、気持ちよさそう。
──海翔くん、どこの公園に連れて行ってくれるのかな。
楽しみに思いながらも、心の底からははしゃげない。
──やっぱり……伝えよう……。
──わたしはオーディションに出ないって……。
──海翔くん、ひとりで出てほしいって……。
前はオーディションが終われば、そのとき姿を消せばいいと思っていた。
だけど、海翔くんのことが好きだと気づき、できるだけ長く彼のそばにいたいと思うようになってしまった。
──海翔くんはハーヴになる。だから、いずれわたしたちは離れなきゃいけない。
──でも、わたしがオーディションに出なければ……人目に触れなければ、当分わたしたちは一緒にいられる。
──海翔くんのそばにいたい。
──せめて、ハーヴのデビューが決まるまでは……。
わたしがしようとしていることは、ほんの少し別れを先のばしするだけ。
それに、オーディションに賭けている海翔くんの気持ちをくじいてしまうかもしれない。
伝えるかどうか、迷いはまだ残っていた。
──海翔くん……なんて言うかな。
わたしは不安な気持ちのまま、ハーモニカをバッグに入れた。
※ ※ ※
海翔くんと訪れたのは、海辺近くの公園だった。
草むらの向こうに広々と海が開け、風が心地よく吹いてくる。
「わあ、気持ちいいー!」
目の前の景色に、この街に越してきて間もない頃、自転車をこいで海を目指したことを思い出す。
──あのとき海にはたどり着かなかったけど、わたしは高校生の美雨ちゃんに出会って……
そして、オルゴールをもらったんだっけ……。
ずっと昔のような、つい最近のような、あの日……。
──もしかすると、オルゴールをもらった瞬間から、なにかが変わりはじめてたのかな……。
自分に起こったことは未だに信じられない。
信じられないまま、夢中で毎日を暮らしてきた。
不安と寂しさと混乱がまぜこぜになった気持ちと一緒に……。
だけど……
今、すぐそばに海翔くんがいて、わたしは幸せすら感じている。
「比呂、ここに座るか」
笑顔の海翔くんが振り向いた。
「うん」
木かげのベンチに海翔くんが腰を下ろしたので、わたしもその隣に座る。
「やっぱ、来てよかったなあ。曲作り、はかどりそうだ」
海翔くんがギターケースを開けながら言う。
「……もうすぐ完成だね」
「ああ。ここまでこられたのも、比呂がいろいろアドバイスしてくれたからだよな。
オーディション……比呂と一緒に歌えるのが楽しみだ」
「え……」
──やっぱり……わたしと一緒に歌っていくつもりなんだ……。
隣で楽しげにギターを弾く海翔くんの姿に胸がつまる。
──今、言おう……。わたしはオーディションに出るわけにはいかないって……。
──海翔くんと少しでも長く一緒にいたい。
──だから、言わなきゃいけない……。
「海翔くん……」
心を決め、思い切って口を開く。
「わたし、オーディションには出られない」
「……出られない?」
ギターの音が止まった。
──ルミ子さんからもらったハーモニカ……。
チェストのところへ行き、ハーモニカを手に取る。
──広い場所で吹いたら、気持ちよさそう。
──海翔くん、どこの公園に連れて行ってくれるのかな。
楽しみに思いながらも、心の底からははしゃげない。
──やっぱり……伝えよう……。
──わたしはオーディションに出ないって……。
──海翔くん、ひとりで出てほしいって……。
前はオーディションが終われば、そのとき姿を消せばいいと思っていた。
だけど、海翔くんのことが好きだと気づき、できるだけ長く彼のそばにいたいと思うようになってしまった。
──海翔くんはハーヴになる。だから、いずれわたしたちは離れなきゃいけない。
──でも、わたしがオーディションに出なければ……人目に触れなければ、当分わたしたちは一緒にいられる。
──海翔くんのそばにいたい。
──せめて、ハーヴのデビューが決まるまでは……。
わたしがしようとしていることは、ほんの少し別れを先のばしするだけ。
それに、オーディションに賭けている海翔くんの気持ちをくじいてしまうかもしれない。
伝えるかどうか、迷いはまだ残っていた。
──海翔くん……なんて言うかな。
わたしは不安な気持ちのまま、ハーモニカをバッグに入れた。
※ ※ ※
海翔くんと訪れたのは、海辺近くの公園だった。
草むらの向こうに広々と海が開け、風が心地よく吹いてくる。
「わあ、気持ちいいー!」
目の前の景色に、この街に越してきて間もない頃、自転車をこいで海を目指したことを思い出す。
──あのとき海にはたどり着かなかったけど、わたしは高校生の美雨ちゃんに出会って……
そして、オルゴールをもらったんだっけ……。
ずっと昔のような、つい最近のような、あの日……。
──もしかすると、オルゴールをもらった瞬間から、なにかが変わりはじめてたのかな……。
自分に起こったことは未だに信じられない。
信じられないまま、夢中で毎日を暮らしてきた。
不安と寂しさと混乱がまぜこぜになった気持ちと一緒に……。
だけど……
今、すぐそばに海翔くんがいて、わたしは幸せすら感じている。
「比呂、ここに座るか」
笑顔の海翔くんが振り向いた。
「うん」
木かげのベンチに海翔くんが腰を下ろしたので、わたしもその隣に座る。
「やっぱ、来てよかったなあ。曲作り、はかどりそうだ」
海翔くんがギターケースを開けながら言う。
「……もうすぐ完成だね」
「ああ。ここまでこられたのも、比呂がいろいろアドバイスしてくれたからだよな。
オーディション……比呂と一緒に歌えるのが楽しみだ」
「え……」
──やっぱり……わたしと一緒に歌っていくつもりなんだ……。
隣で楽しげにギターを弾く海翔くんの姿に胸がつまる。
──今、言おう……。わたしはオーディションに出るわけにはいかないって……。
──海翔くんと少しでも長く一緒にいたい。
──だから、言わなきゃいけない……。
「海翔くん……」
心を決め、思い切って口を開く。
「わたし、オーディションには出られない」
「……出られない?」
ギターの音が止まった。