オルゴール(1)
文字数 1,479文字
鑑定作業はスムーズに進んだ。
ただ……骨董品の数があまりにも多い。
ルミ子さんは依頼人から、屋敷内に飾ってある美術品を残らず見てほしいと言われたのだった。
──ひとつかふたつだと思ってた。甘かったな……。
ルミ子さんの出す鑑定金額や美術品の特徴をメモする手がだんだん疲れてくる。
「じゃ、比呂ちゃん、次はこの部屋に入るわよ」
「は、はい……」
──ここも豪華だなあ。素人目にもすごさがわかるっていうか……。
部屋にさりげなくあるアンティークの家具や小物もきっと高価なものに違いない。
「やりがいのある仕事で嬉しいけど、なかなか終わりそうにないわね」
膨大な骨董品を相手にし、さすがのルミ子さんも疲れたのか、トントンと腰を叩いている。
「大丈夫ですか、ルミ子さん」
「ええ、平気。さっそくはじめましょう」
「はい……」
──それにしても……これだけの骨董品を、どうしてうちみたいな小さい古道具屋に鑑定させる気になったんだろう。
不思議に思いながらも、そのままルミ子さんと仕事を続けた。
ひととおり鑑定が終わると客間に案内された。
依頼人から中で待つように言われ、ルミ子さんと猫足のアンティークソファに座っている。
──うーん、なんとなく落ち着かない……。
さっきルミ子さんが隣で「このソファ、かなりいいものだわ」とつぶやいたからだ。
──いくらくらいするんだろう……。
──それにしても、ずいぶん広い部屋……。
客間には古そうだけど、グランドピアノまで置いてある。
──ピアノ……誰が弾くのかな。
そのとき……
「お待たせしました」
客間のドアが開き、ティーセットをトレイに乗せた依頼人が入ってきた。
すると、急に部屋の空気が一変する。
──ホント、きれいな子だなあ。
洋館にやって来ていちばん驚いたのは、今回の依頼人がモデル並みのルックスの女子高生だったことだ。
──この美少女、洋館に似合いすぎだよね。
白いブラウスとチェックのスカートの制服姿は清楚で、
サラサラとした長い髪もまた美少女のお約束どおりだ。
──はあ……放つオーラがまぶしい……。
「お疲れさまでした。あ、紅茶……ダージリンでも大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます」
ニコニコしながら、ルミ子さんが答える。
「……そちらの方も?」
美少女がわたしを見る。
「あ、はい」
──これだけの豪邸、お手伝いさんがいるんだろうけど、じきじきにお茶を淹れてくれるんだ……。
「ありがとうございます。紅茶はダージリンがいちばん好きなんです」
わたしが言うと、美少女はコクリとうなずいた。
「そうですよね」
「え……?」
意外な言葉に、思わず美少女を見つめる。
──そうですよねって……。
──なんで、わたしがダージリンを好きなこと知ってるの?
すると、ほんの少し間があいて……
「……ダージリン、わたしも好きなんです」
と微笑みながら言われる。
「あ……」
──なんだ、そういう意味……。びっくりした。
単なる勘違いだったんだとわかり、わたしも美少女に笑みを返す。
「とっても美味しいし、香りもいいですよね」
「……ええ、本当に」
美少女はつぶやくように言い、ティーセットのトレイをテーブルに置いた。