ハーヴ(4)

文字数 970文字

「ルミ子さん、メール見せてもらってもいいですか?」

「ええ、どうぞ」



スマホを受け取り、文面に目を走らせる。

息子さんからのメールには、電話もしていないし、まだ海外にいると書かれていた。



──やっぱり詐欺だったんだ。でも、なにごともなくてよかった……。



ホッと胸をなでおろしていると、ルミ子さんが店の奥に行く。



「あの……ルミ子さん?」

──どうしたんだろう?



やがてもどってきたルミ子さんは机に画用紙を広げた。



「ルミ子さん、これは……?」

「世の中に、こんな悪いことを思いつく人がいるなんてね。あなたのアドバイスどおり、店に誰か来てもらうことにするわ」



ルミ子さんが真剣な顔で言う。



「あ……画用紙で張り紙を?」

「そう。善は急げでしょ?」



横一文字に口を結び、ルミ子さんは油性ペンのキャップを外す。



「えーっと……まず、『アルバイト募集中』……っと」


つぶやく声とともにペンがキュッキュッと画用紙の上をすべり、文字をつらねる。


──ルミ子さん、おっとりしてるのに意外な行動力……。


驚き、感心しながら、ルミ子さんの様子を見ていると……



「時給はどうしようかな……。とりあえず、『相談の上で決定』にしとこう。それから……」



あっという間にアルバイト募集の張り紙ができあがる。



「これでよし!」



とても満足げなルミ子さんだったけれど……

張り紙のいちばん下には『運命線の長い方、お待ちしています』と大きな文字で書かれている。



──ほ、ホントに書くんだ……。


「今日はありがとう。これで息子の留守中もなんとかなりそう」

「い、いえ……」


──なんとか……なるんだろうか……。



ルミ子さんの天真爛漫さに、どうしても不安がぬぐいきれない。



「あら、ハーブティーが冷めてる。今、入れ直しましょうね」

「あ、わたし、そろそろ……」

「もう帰っちゃうの? あら……いつの間にか、こんな時間。長いことお引きとめしてごめんなさい」

「とんでもないです。……どうも、ごちそうさまでした」



頭を下げ、立ちあがる。



「またいつでも遊びにきてね」



ルミ子さんは、とても人なつっこい笑顔でそう言った。

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