オルゴール(2)
文字数 1,709文字
ダージリンの香りが部屋に広がる中、なごやかな会話が続く。
──勤務中なのに優雅な時間……。いい仕事だなあ。
実のところ、今回の仕事は古葉村邸のご主人──美少女のおじいさんからの依頼ともいえる。
美少女はおじいさんから自分の海外旅行中に、
美術品の買い取りの見積もりを出しておくよう頼まれたらしい。
そこで、とにかく住所の近い古道具屋をいくつかピックアップし、
鑑定を依頼しているということだった。
──売買の知識が少しでもあったら、たぶん美術品専門の店を選んだんだろうな。
──大人っぽく見える子だけど、その辺はやっぱり高校生なのかな。
だけど、ルミ子さんは彼女を子どもあつかいせず、きちんと対応している。
「質の良いものばかりで驚きました。他店の見積もりもご入用でしたら、知り合いの美術鑑定士をご紹介いたしますね」
「ありがとうございます。ところで……」
テーブルの向こう側から、美少女がなぜかルミ子さんにではなく、わたしに話しかけてくる。
「なにか見おぼえのあるもの、ありましたか?」
「へ……っ?」
突拍子もない質問に、間の抜けた声が出る。
──なに? 見おぼえのあるもの……って?
わけがわからず、ポカンとしていると……
「失礼いたしました。この子、まだ働きはじめて日が浅いので……」
明らかに笑うのを我慢しながら、ルミ子さんがフォローする。
──いけないっ、バイトとはいえ、古道具屋の店員なのに……!
「し……失礼いたしました」
わたしはあわてて頭を下げた。
──恥ずかしい……。
──いくら驚いたからって、へ……っ、はないよね。
反省しつつ、そろそろと顔をあげる。
──あれ……?
てっきり笑われているか、あきれられているかと思ったのに、
美少女はなぜか少し寂しそうな顔をしていた。
──どうして、そんな顔を……?
戸惑ったけれど、次の瞬間には美少女は元の大人びた表情にもどっていた。
──気のせいだったのかな……。
あれこれ考えをめぐらすわたしをよそに、ルミ子さんと美少女は話を続ける。
「祖父のコレクションなので、わたしはあまりわからないんですが……」
「かなりのものですよ。博物館にあってもおかしくないものも数点ありましたし──」
──ああ、なるほど。
──有名な骨董品もあったから、わたしが知ってると思われたんだ。
ふたりの会話を聞くうち、美少女の質問の意味にようやく納得がいく。
それでも、まだ微かな違和感が残る。
──なにか見おぼえのあるもの……なんで、そんな遠回しの言い方したんだろう。
──お嬢さまだからなのかな。上品っていうか、わかりにくいっていうか……。
ぼんやりとそんなことを考えていると……
「あの……最後に、もうひとつ見ていただけますか」
美少女は立ちあがり、部屋の片隅にある背の低いガラスキャビネットのところまで行った。
そしてもどってくると、手には木の小箱を持っていた。
──なんだろ。アクセサリーケース?
両手のひらに乗るくらいの大きさで、年季を感じさせる深い飴色をしている。
「これなんですけど」
もどってきた美少女は、なぜかわたしの目の前にその箱を置く。
「え……」
──なんで、わたしに?
──さっきの、「へ……っ?」で、骨董品の知識なんかないってわかったはずなのに……。
「こ、これですか。えーっと……」
「あらっ、かわいい小物入れ」
どうしたものかと思っていると、ルミ子さんがわたしに代わって話しはじめる。
「このデザイン……1800年代のフランスのものじゃないかしら」
「祖父が旅先のアンティークショップで買ったので、わたしはよくわからないんですが……
それほどめずらしいものではないと思います。どうぞ、そのまま手にとってください」
なぜか少しせかすように言いながら、美少女はわたしを見る。
──勤務中なのに優雅な時間……。いい仕事だなあ。
実のところ、今回の仕事は古葉村邸のご主人──美少女のおじいさんからの依頼ともいえる。
美少女はおじいさんから自分の海外旅行中に、
美術品の買い取りの見積もりを出しておくよう頼まれたらしい。
そこで、とにかく住所の近い古道具屋をいくつかピックアップし、
鑑定を依頼しているということだった。
──売買の知識が少しでもあったら、たぶん美術品専門の店を選んだんだろうな。
──大人っぽく見える子だけど、その辺はやっぱり高校生なのかな。
だけど、ルミ子さんは彼女を子どもあつかいせず、きちんと対応している。
「質の良いものばかりで驚きました。他店の見積もりもご入用でしたら、知り合いの美術鑑定士をご紹介いたしますね」
「ありがとうございます。ところで……」
テーブルの向こう側から、美少女がなぜかルミ子さんにではなく、わたしに話しかけてくる。
「なにか見おぼえのあるもの、ありましたか?」
「へ……っ?」
突拍子もない質問に、間の抜けた声が出る。
──なに? 見おぼえのあるもの……って?
わけがわからず、ポカンとしていると……
「失礼いたしました。この子、まだ働きはじめて日が浅いので……」
明らかに笑うのを我慢しながら、ルミ子さんがフォローする。
──いけないっ、バイトとはいえ、古道具屋の店員なのに……!
「し……失礼いたしました」
わたしはあわてて頭を下げた。
──恥ずかしい……。
──いくら驚いたからって、へ……っ、はないよね。
反省しつつ、そろそろと顔をあげる。
──あれ……?
てっきり笑われているか、あきれられているかと思ったのに、
美少女はなぜか少し寂しそうな顔をしていた。
──どうして、そんな顔を……?
戸惑ったけれど、次の瞬間には美少女は元の大人びた表情にもどっていた。
──気のせいだったのかな……。
あれこれ考えをめぐらすわたしをよそに、ルミ子さんと美少女は話を続ける。
「祖父のコレクションなので、わたしはあまりわからないんですが……」
「かなりのものですよ。博物館にあってもおかしくないものも数点ありましたし──」
──ああ、なるほど。
──有名な骨董品もあったから、わたしが知ってると思われたんだ。
ふたりの会話を聞くうち、美少女の質問の意味にようやく納得がいく。
それでも、まだ微かな違和感が残る。
──なにか見おぼえのあるもの……なんで、そんな遠回しの言い方したんだろう。
──お嬢さまだからなのかな。上品っていうか、わかりにくいっていうか……。
ぼんやりとそんなことを考えていると……
「あの……最後に、もうひとつ見ていただけますか」
美少女は立ちあがり、部屋の片隅にある背の低いガラスキャビネットのところまで行った。
そしてもどってくると、手には木の小箱を持っていた。
──なんだろ。アクセサリーケース?
両手のひらに乗るくらいの大きさで、年季を感じさせる深い飴色をしている。
「これなんですけど」
もどってきた美少女は、なぜかわたしの目の前にその箱を置く。
「え……」
──なんで、わたしに?
──さっきの、「へ……っ?」で、骨董品の知識なんかないってわかったはずなのに……。
「こ、これですか。えーっと……」
「あらっ、かわいい小物入れ」
どうしたものかと思っていると、ルミ子さんがわたしに代わって話しはじめる。
「このデザイン……1800年代のフランスのものじゃないかしら」
「祖父が旅先のアンティークショップで買ったので、わたしはよくわからないんですが……
それほどめずらしいものではないと思います。どうぞ、そのまま手にとってください」
なぜか少しせかすように言いながら、美少女はわたしを見る。