夏祭り(2)

文字数 1,291文字

ふたりでいくつか夜店をまわるうち、わたしたちはすっかりいつもの調子にもどっていた。

今は夜店の明るい照明の下で、海翔くんがヨーヨー釣りに夢中になっている。



「俺、このまま何個でも取れそうな気がしてきた」

「10個取ったら景品だって。がんばって!」



次々とヨーヨーを釣りあげる海翔くんに声援を送る。



──それにしても海翔くん、コワイくらい真剣。作曲してるときと同じくらいかも。



「ねえ、遊びなんだからもっと気楽に──」

「静かにっ」

「は、はい……すみません」


──すっかり本気モードだ。

──周りにいるどの子どもよりハマってる。おもしろいなあ……。



隣で眺めているだけで、なんだか笑いがこみ上げてくる。

色とりどりのヨーヨーは海翔くんが釣りあげるたびにぶつかり、キュッと楽しげな音を立てる。



「あ! あのピンクのがかわいい! あれ取ってみて」



わたしが透きとおったピンク色のヨーヨーを指さすと、海翔くんはすぐに首を横に振る。



「あれはムリ。絶対ムリ。ひっかけるとこが、どっぷり水の中だし」

「ちょっとくらい、ぬれても大丈夫じゃない?」

「ダメだ。こよりが切れる」


「えー、試しにやってみようよ。チャレンジだよ、チャレンジ」

「その適当さで、比呂の記録はまさかの1個だったよな」

「ま、まあね……。わかったよ。黙って見とくよ」



しゅんと肩をすくめ、大人しく膝を抱える。

すると海翔くんが、シャツのそでをまくった。



「……ったく。しょーがねーな……」



海翔くんはぶつぶつ言いながら、さっきのヨーヨーにそっと釣り針を近づける。



──あ……取ってくれるんだ。うまく取れるかな……。



ちょっとドキドキしながら、海翔くんを見守る。



──ヨーヨー釣りなんて子どもじみた遊びなのに、なんか楽しい……。



参道の店はどこもにぎわっていて、はしゃいだ笑い声が聞こえてくる。

ムッとするような熱気に汗がにじみながらも、隣の店が作るわたあめの甘い香りにもワクワクしてしまう。



「んっ!? これ、いけるぞ!」

「ホント!?」

「……それっ!」



海翔くんがさっとこよりを引きあげると、かわいいピンク色のヨーヨーが釣れた。



「やった! 海翔くんすごい!」

「思ったより簡単……うわっ!?」



そのとき、こよりがプツッと切れ、落ちるヨーヨーを海翔くんがあわてて容器で受けた。



「あっぶねー、ギリギリ……」

「ヒヤッとしたねー……」



ほおっとため息をついたのはふたり同時だった。



「なんかもう、俺、汗だく。ヘトヘト……」

「そ、そこまで本気で……?」

「なんだよ? おかしいって言いたいの?」

「うん、おかしい!」



わたしが笑うと、海翔くんも、ははっと笑いながら手の甲で額の汗を拭く。



──こんなに笑ったのって、久しぶり……。



わたしはまるで子どもの頃にもどったような気持ちで、夏祭りを海翔くんと一緒に楽しんでいた──。

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