第198話 私のシンデレラストーリー②
文字数 2,093文字
現場で撮影が始まるまでは、当時の私は大物女優気取りで、たくさんの人を見下していた。
紗絵ちゃんはそんな私に気づいていたのか何も努力していない私に、クランクインの前から口うるさく諭してくれていたのに、当時の私にとってはそれはウザい大人の説教にしか聞こえていなかった。
自信に満ち溢れ、勘違いした私は、初日にとても恥ずかしくて惨めな思いをする…
そして投げ出したくなるどうしようもない私に手を差し伸べてくれたのは、主演の成瀬 紗絵とそのマネージャーの沢田さんだった。
私が勘違いしていた時、学校では、修也の彼女役をしていた。
いっそのことこのまま付き合えたらいいのになんて思うけど、人生はそんなに都合よく出来ていないらしく、そうはならなかった。
なにより、主演なのに威張ることもなく自ら現場で率先して動く紗絵ちゃんの姿を見て考え方が変わったのもあるかもしれない。
紗絵ちゃんの周りにはいつも彼女を担いでくれる人が周りに沢山いた。でも、それは周りの人が上司から言われたりして、嫌嫌担いでいるわけじゃない。
みんなが尊敬し、そして本人も周りに謙虚で感謝の気持ちを忘れない人だから、なんだと気付かされる。
そんな成瀬 紗絵の姿を見て、あのとき、私もこういう人になりたいって思えたんだ。
私には才能は無いと思っていた。でも、きっと自分を知ることで、人として大切なことを学べたから、後の私の芸能会という弱肉強食の世界での活動に繋がっていったんだ。
そして、眠っていた私の中の成瀬 絵里の血が動き出すんだ。
初めて聞いた、私の父親は藤堂 保という日本有数の企業である藤堂グループの御曹司であることがわかった。
英玲奈さんが紗絵ちゃんに突っかかってくる理由、芸能界から排除したかったのは、目立たず、静かに過ごさせることが目的だったと知る。
成瀬 紗絵は既に活躍してしまっていたけど、色々なことが表に出るのが藤堂の家にとっては迷惑なことだったのだろう…
藤堂のようなエリート家系にお母さんのような庶民の家庭で、妊娠し出産した年齢は今の私と変わらない頃の話で、決してあちらの家には、良く思われていないんだろうなってことが…
初めて会ったお父さんは私が想像している人とは少し違った。
英玲奈さんとは性格は対照的な人で、悪い印象はあまり持たなかった。
私がお父さんに会いたがったのには理由があった。
当時、紗絵ちゃんには彼氏が出来ていた。
親友の元RISE-1のメンバーでもある恵美ちゃんが結婚した。
紗絵ちゃんも結婚してもおかしくない歳になった。
私がいるせいで婚期を逃してほしくないし、ずっと忙しい中でもお母さんをしてくれた人に私は幸せになってほしかった。
お隣の修也とはお隣さんじゃなくなり、毎日顔を合わせれ無くなるのは、残念だけど、私がここから出ていけば、紗絵ちゃんが幸せになれるなら、お父さんも悪い人じゃなさそうだし、藤堂 紬になってもいいんじゃないかと思ってしまったんだ…
でも、その選択のせいで、私をずっと見放さないで大切にしてくれた唯一の肉親の紗絵ちゃんを失いかけることになる…
私は高校の入学式で高校の制服を着た私の姿を見せたかった。
でも多忙の一流芸能人成瀬 紗絵は本来その日は仕事で来れない予定だった。
お父さんが藤堂 紬となった私の堀北学園の入学式に来てくれた。
新入生の入場の最中に私には、確かに聞こえたんだ…
紗絵ちゃんの車の音が…
体育館から急に出ようとする私を止めたお父さん。
お父さんにはそんな音は聞こえないと言われ、幻聴なのかもしれない、でも来てくれたのかもしれない。そう思って静止を振り切り上靴のまま体育館の外へ出ると、悲惨な光景が私の視界には入った…
大破した車…見覚えのある車で事故の衝撃で飛んでしまったナンバープレートを見て確信した…
(紗絵ちゃんだ…)
神様…お願いだから、唯一の私の肉親を奪わないでほしい…
命を救うために尽くせることはお父さんに任せることしか出来ない…
私が出来るのはただ、ひたすら神頼みと、お母さんと祖父母に紗絵ちゃんを連れて行かないでくださいってお願いすることしか出来なかった…
高校1年生
成瀬 紗絵の入院する藤堂総合病院お見舞い時
※物語では載せていなかった画像です。