第81話 私が彼女役してあげる

文字数 1,960文字

紗絵ちゃんが何か言う前に、紗絵ちゃんの隣りにいた脚本家さんが拍手して私に言った。
いや〜実に素晴らしい!

実はね、まだ公表されていないことだけなのでここだけの話だけどね、君の考える人物像そのものと一緒なんだよ。成瀬 紗絵さんに私はこの事を伝えたりしていないから、なんて答えるのかなぁと思ったが、君の解答は100点だよ。


私は成瀬 紬さんに是非決定したいんだけど、どうかな?

脚本家さんが隣の佐々木監督に問いかけると頷いていた。


(いいぞいいぞ、このまま私でこの場で決まってしまえばいい)

そう思っていたら、脚本家さんと監督の合意に紗絵ちゃんが口を挟んだ。
私は反対です。まだ全員の審査が終わったわけじゃないじゃないですか。


この場で他の人達もまだ残ってる中、決定だなんて、全員終わってから、再度考えてもいいんじゃないですか?


この後に控えてる子達の為にも公平に審査するべきです。


もっと優秀な子が控えてる可能性だってあるのに内定だなんて、可能性潰しちゃうじゃないですか。

そうか、君がそう言うなら、じゃあそうしよう。
監督も脚本家も話題性を求めた制作会社のお偉いさんも、私を推したんだから、それで決まりで良かったのに、紗絵ちゃんの一言で私がこの場で内定は無くなった…


(邪魔しないでよ!!なんなの!!)


心の中で思ったことを目の前にいる紗絵ちゃんに言ってやりたかったけど、せっかく内定を目の前にするくらいの位置にいるのに印象が悪くなっては困ると思い、私は我慢して席に座った。



私の組が終わると、外に出て修也に連絡した。
修也は近くにあった本屋さんで時間を潰していたらしく、すぐに来てくれた。
帰り道、私は修也に愚痴をこぼした。
聞いてよ!


脚本家の人が私を決定にしようって言って、監督も頷いたのに、紗絵ちゃんが全員見てからじゃないと公平じゃないとか邪魔してきて、その場で内定だったのに、なくなったんだけど!

そうなのか?まぁひどい話をのような感じがするけど、全員見てからってのが俺も公平だと思うけど?


それで紬が選ばれたなら、それでいいだろ?まだ、何も決まったわけじゃないんだし、そんなに怒ることじゃねーだろ?

は?何で修也は紗絵ちゃんの味方しかしないの?


紗絵ちゃんのこと好きなわけ?私達が年をとったら紗絵ちゃんなんか、おばさんになるんだからね!


万が一私が選ばれなかったら、どう責任取ってくれんのって思うでしょ!


どうせ、力不足だって言った私が内定になるのが気に食わなくて邪魔しただけだよ!

別に紗絵姉の味方ばっかりしてるわけじゃなくて、俺は一般論を言ってるだけだから。


中島が紬のことが好きだから、味方するように俺が紗絵姉を好きだから味方してるとか思ってんのか?(笑)


紗絵姉は一人っ子の俺にとってお姉ちゃんみたいなもんだよ(笑)


そういう人じゃないだろ。個人的な感情で仕事するような人じゃないって紬が一番良く知ってるだろ。

紗絵ちゃんがお姉ちゃんみたいな人なら、私はじゃあ何なの?


私の味方してくれないってことは私はただの同級生?ただのクラスメイト?

怒りと勢いに任せて言ってしまった…
私は何なのとか言われてもな…


よくわかんねーよ…(笑)



静香のことわかってるよね?わかってるくせにうやむやにして、他の女子のことだってそうだよね?


結構モテてるくせに彼女の一人もいなくて男が好きなのかと思われるよ(笑)


そういう噂なんか出始めたら困るでしょ。


断りたくても傷つけたくないとか変な優しさで断れないのタイプなの?


だったら、まわりが諦めてくれるように、私が彼女役やってあげるよ(笑)

紗絵ちゃんに対しての怒りの八つ当たりで修也にも半分八つ当たりと、前から思っていたことをぶちまけたあげく、怒りに任せて彼女役をやってあげるとか、わけわかんないことを言ってしまった…
まぁ、紬の言ってることは当たってるから反論はしねーよ…でも男が好きとかじゃねーから(汗)


は?何言ってんだよ?そんなことしたら中島が傷つくだろ。


紬が彼女役なんてしたら、静香だって傷つくだろ。

じゃあ中島君には本当のこと言えばいいじゃん。


俺が情けないから、彼女役してもらってるだけだって。


静香にも本当のこと言えばって思うけど、そしたら、静香は私が彼女役するとか言うだろうから、静香の気持ちわかってて彼女役だなんて余計に傷つくでしょ。


恋なんて、みんながみんな叶うものじゃないでしょ。多かれ少なかれどこかで誰かが傷つくもんでしょ。

そう言って私は隣を歩く修也の手を握った。
なにすんだよ?お前どうしたんだよ?頭大丈夫か?
彼女役やってあげるって言ったじゃん。


何動揺してんの?(笑)


頭正常だよ。演技の練習だから(笑)

突発的なただ怒って勢いに任せた行動…


言うほど、嫌そうにしてるわけでもなさそうなので、そのまま手を握ったまま帰り道を私は修也と帰った。

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登場人物紹介

成瀬 紬(なるせ つむぎ)。

物語の主人公。紗絵の姪。内気で気弱。

成瀬 紗絵(なるせ さえ)。紬の叔母。

アーティスト、マルチタレント。

T.Kレコード所属RISE-1のメインボーカル。

山本 登(やまもと のぼる)。山本道場師範。修也の父親。絵里や紗絵の恩師。

山本 千鶴(やまもと ちづる)。修也の母親。

山本 修也(やまもと しゅうや)。のちに紬の幼馴染となる人物。初恋の人は茅ヶ崎 恵美。

沢田 水子(さわだ みずこ)。T.Kレコード会社マネージャー。紗絵の所属するグループRISE-1の担当マネージャー。

茅ヶ崎 恵美(ちがさき めぐみ)。

アーティスト、マルチタレント。紗絵と同じRISE-1のメンバー。紗絵とは親友でもありライバル。

佐々木 虎男(ささき とらお)。ギャング組織での一員。のちに紗絵の舎弟的存在となる。

藤堂 英玲奈(ふじどう えれな)。

美少女コンテストで紗絵が負けた相手。

美少女コンテストグランプリ受賞者。

紗絵より年齢は1つ上。

藤堂グループの令嬢。高飛車で性格は悪い。

安西 楓(あんざい かえで)。紬と修也と同年代で二人が高校生の頃に登場する人物。

紬の恋敵。

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