第86話 卒業までのタイムリミット

文字数 1,904文字

なんか出るに出ていくことが出来なくなった私は理由がわからず、部屋の扉の前で固まっていた…


2人の話は続く…

いつが最後の日かも決まったの…?
6月のスタジアムライブツアーが最後の予定だよ…


紗絵と10歳で知り合って、6月だと二人とも25歳になってるね。


15年間長いようであっという間だったなぁ…

みんなにはいつ言うの…?
明日の歌の番組みんなで出るときかな。楽屋で言うよ。
そっか…
そんなしょんぼりしないでよ。まだ、今月とか来月の話じゃないんだからさ。



うん…
二人の会話が終わり、それぞれの部屋に入っていく音が聞こえた…


(どうしよう…私は知らなかったってことのほうがいいよね?そのうち言われるよね?)

結局、この日は普通に過ごして、夕方紗絵ちゃんが仕事に行く前にちゃんと謝った。


紗絵ちゃんは私の反抗期に比べたら可愛いもんだよとか言って、もともと気にしてないようだった。

私は恵美ちゃんのことは紗絵ちゃんに聞けなかった…



学校にいる間にふと思った。


(恵美ちゃんは確か引退だか、辞めるっていうのは6月って言ってた…でも、ガンダムPIECE FINALの公開は7月。ってことは主題歌はどうなるの?恵美ちゃんがいる状態で曲は収録して、発売されたら恵美ちゃんはいないの?)

私が心配することでもないのだろうけど、気になる…


自分のセリフを覚える時間を取りたいのに集中出来ない…


(やっぱり今日の撮影の時紗絵ちゃんに聞こう…)

私は今日撮影があるため、学校は午前中で早退なので、終わり次第撮影現場に向かうのだが、特に専属のマネージャーもいるわけでもないし、予定より早めに早退して、タクシーで現地に向かった…


タクシーの運転手さんには、私みたいな中学生が、学校を早退してタクシーに乗るので、不思議がられたが、映画の撮影なんですって言ったら、なるほどっていう顔をされた。

タクシー運転手さんが近道してくれたので、予定より早く着いた。
衣装を着て、メイクを受けると、まだ予定よりだいぶ早いので、本来なら台本に目を通したいのだが、急いで紗絵ちゃんのもとにいって小声で聞く。
びっくりしないでね。朝起きてて、会話聞いちゃった…


盗み聞きするつもりなんてなかったんだけど、部屋から二人が深刻な話ししてるから出るに出れなくなって、結果的に聞いちゃった…

紗絵ちゃんはちょっとびっくりした顔をしていたけど、周りを見て、誰にも聞こえないくらいの声で私に言った。
恵美ね、南野と結婚するの。最近妊娠がわかったの。


私は続けたら?って聞いたけど、子育てに専念したいみたい。


恵美の人生だから、本人が選んだ道なら送り出してあげなきゃね…


私に出来ることはそれくらいだから…


でも、まだ公表前だから内緒ね。

私はびっくりしたけど、大きな声を出すわけにはいかないので耐えた。
教えてくれてありがとう。内緒にするから安心して。集中しなきゃいけないのに、今日朝からずっと気になってて集中できてなかったから、ちゃっと本番前だけど残り時間で頑張る(汗)
朝、そんな早く起きてたなら、恵美に直接聞けばよかったのに(笑)


多分、普通に教えてくれたと思うよ?


だって、紬は一緒に住んでるんだから、恵美のこと色々知ってるんだしさ(笑)

聞いちゃいけないこと聞いちゃったのかと思っちゃってさ…


詳しくは今度聞こうかな。


事情がわかったから、スッキリした。


あとは本番に向けて集中するね。

私は今日の撮影では衣奈さんが演じる新戦艦乗組員のマリと絡むシーンもあるため、私がミス連発して同じように緊張してるであろう衣奈さんに迷惑はかけられないと思っていた。


直接、衣奈さんに言ったわけではないが、ちょっと前の調子に乗っていた私は衣奈さんを見下していた…


ても、今は違う。


メインの枠ではなくセリフも凄いあるわけでは無いが、サラ・メンデス(成瀬 紗絵)との会話シーン等もあるので、本人は凄く嬉しそうだ。失敗して怒られることもあるが、純粋に楽しみながら仕事を活き活きとしている。


そして、誰よりも謙虚でひたむきだ。


そんな衣奈さんを見ていて気付かされたことがある。


私も紗絵ちゃんと純粋に共演してみたいと思っていた最初の気持ちを…


私は自分で、ちょっと仕事に対する意識が変わったと思っていたけれど、衣奈さんを見ているとまだまだ全然駄目だと自覚させられる…




でも、いい刺激になっている。


今はお互いに頑張り合おうという気持ちと負けられない気持ちと、尊敬する気持ちを持っている。


私は撮影前の時間ひたすら自分のシーンのことに集中した。


衣奈さんとのシーンはお互いにミスなしで一発でオッケーが出て喜びあった。

※RISE-1 成瀬 紗絵 24歳


スノーボード用品CMイメージガール

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登場人物紹介

成瀬 紬(なるせ つむぎ)。

物語の主人公。紗絵の姪。内気で気弱。

成瀬 紗絵(なるせ さえ)。紬の叔母。

アーティスト、マルチタレント。

T.Kレコード所属RISE-1のメインボーカル。

山本 登(やまもと のぼる)。山本道場師範。修也の父親。絵里や紗絵の恩師。

山本 千鶴(やまもと ちづる)。修也の母親。

山本 修也(やまもと しゅうや)。のちに紬の幼馴染となる人物。初恋の人は茅ヶ崎 恵美。

沢田 水子(さわだ みずこ)。T.Kレコード会社マネージャー。紗絵の所属するグループRISE-1の担当マネージャー。

茅ヶ崎 恵美(ちがさき めぐみ)。

アーティスト、マルチタレント。紗絵と同じRISE-1のメンバー。紗絵とは親友でもありライバル。

佐々木 虎男(ささき とらお)。ギャング組織での一員。のちに紗絵の舎弟的存在となる。

藤堂 英玲奈(ふじどう えれな)。

美少女コンテストで紗絵が負けた相手。

美少女コンテストグランプリ受賞者。

紗絵より年齢は1つ上。

藤堂グループの令嬢。高飛車で性格は悪い。

安西 楓(あんざい かえで)。紬と修也と同年代で二人が高校生の頃に登場する人物。

紬の恋敵。

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