第109話 一緒ですね

文字数 2,124文字

英玲奈さんが会議室の時計を見た。
もうお昼なのね。
あ!すいません…私のせいで。お仕事中なのに…
いいのいいの。私の仕事なんてお茶くみにコピー取り。切れた電球の交換。


いなくても問題ないでしょ?


それに嫌み言われながらお茶出しするくらいなら、こっちのほうがよっぽど気楽でいい仕事よ(笑)


午前中は私が総務の仕事しなくても、お兄様からの指示なわけだから、誰も文句言わないからいいのよ。


あと、聞きたい事があれば連絡してきなさい。


他にも練習したいことがあれば、辛口審査員役くらいなら、してあげるわよ(笑)


この私からのアドバイスもらっておきながら負けるんじゃないわよ。

英玲奈さんはそう言って自分の連絡先を書いたメモを私に渡した。


(なんか、随分別人みたくなったな…)

ちょっと良い人になっている英玲奈さんに戸惑った…
あ、ありがとうございます。頼りにしてます。


頑張ります!


本日はお時間頂きありがとうございました。

私は立って頭を下げた。
あなたが成瀬 紬だったら、協力してあげなかったんだけど、今のあなたは藤堂 紬なの。


私の親戚なんだから、せいぜい恥かかせないように頑張りなさいね。

(あ〜なるほど…英玲奈さんが協力的だったのは自分の面子のためか…(笑))
は、はい。頑張ります!
あなたは、紗絵さんみたいに口答えしてこないし礼儀正しいみたいだから、嫌いじゃなくなったわ(笑)
そう言って英玲奈さんは仕事に戻っていった。


結構緊張したからか、どっと疲れが出た…

今日は本当は電車で来るはずだった。


でも藤堂の本社の場所を知らないだろって言われてお父さんが急遽酒井さんを呼んだ。


急遽呼んだにも関わらず待たせてしまって申し訳ないので、自販機でコーヒーを買った。


私はコーヒー飲めないのでいろんな味があってわからないけど、カラフルなラベルのものをなんとなく選んだ。

受付で案内してくれたお姉さんにお礼を言って外に停めてある車に戻ると、酒井さんが車から出てきた。
紬様、お待ちしておりました。どうぞ。
すいませんでした。長い時間お待たせしてしまって。


あの、よかったら飲んでください。

私がコーヒーの缶を渡すと酒井さんはコーヒーの缶をじーっと見ていた。
(あれ?あんまり好きじゃない味とかだったかな?)


そう思って車に乗ると、酒井さんがドアを閉めてくれて、運転席に乗ると口を開いた

お気遣い頂きありがとうございます。頂きます。


英玲奈お嬢様はお元気にされてましたか?

お口に合わなかったらすいません。


英玲奈さんは元気そうでしたよ。なんか私の知ってる英玲奈さんはもっと攻撃的な感じだったはずなんですけど、少しトゲがなくなってました(笑)

そうですか。昔、まだ、英玲奈お嬢様が小さかった頃、今日の紬様と私に同じように、コーヒーを買ってきてくれたことが良くありましてね。


懐かしいなぁと思ってしまいました。デザインも似たものでしたね。


英玲奈お嬢様は本当は優しい方だと私は知っております。

え?!英玲奈さんでもそういうことする時期あったんですね(笑)


私の中で、英玲奈さんのイメージは、こういう車でふんずりかえって、庶民を見下しながら、ワインを片手に外を眺めながら、気に食わないことがあると八つ当たりで暴言を吐くみたいな…(笑)

失礼な話ですが、ワインは飲んでませんでしたが、ある時から概ね紬様のイメージ通りですよ(汗)


色々と英玲奈お嬢様もあったのでしょうからね…


そういえば、美少女コンテストでしたか?


出られることにしたんですね、

はい。私が出たら紗絵ちゃんの励みに少しでもなれそうなので。


言ってくれたんです。


紬が頑張るなら、私ももう少しあがいて頑張ろうかなって。


事務所も良いところだったので、すんなり辞めること許可出ました。仕事なんてほとんどない私だからかもしれませんけど(笑)


かつてのグランプリと準グランプリにアドバイスもらいながら挑むんですから、ちょっと卑怯ですけどね…

いいんじゃないですか?恵まれた環境を活かせない手はないと思いますよ? 


頑張ってくださいね。戦力になりませんが応援してますから。


英玲奈お嬢様と紗絵さんもそのうち実際は親戚なはずなんですから、仲良くなれると良いですね。

ありがとうございます!


そうですよね!


もう二人ともいい歳した大人なんですから、いつまでも意地の張り合いいい加減やめてほしいですよね(笑)


本人達の前じゃ言えないですけど…


私が言ったこと内緒にしてくださいね(笑)

そうですよね(笑)大丈夫ですよ。私は言うなと言われたことは絶対言いませんから。 
病院に着き、車を降りると、私は紗絵ちゃんの病室に向かう。


病室の前のドアに着くと、中から楽しそうに笑う紗絵ちゃんの笑い声が聞こえた。

(あれ?誰か来てる?面会はまだ誰も出来ないはずだよね?電話で誰かと話でもしてるのかな?)
もし電話中とかだったら、いきなり入っていくのも申し訳ないので、少しドアの前を行ったり来たりしていると、またお話しに来てもいいですかって声が聞こえた。


紗絵ちゃんのお忙しいでしょうから、暇なときなんてないでしょうけど、また話し相手してくださいって声も聞こえた。


病室のドアが空くとお父さんが出てきた。

ドアの前をうろちょろしていた私と、お父さんが遭遇した。
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登場人物紹介

成瀬 紬(なるせ つむぎ)。

物語の主人公。紗絵の姪。内気で気弱。

成瀬 紗絵(なるせ さえ)。紬の叔母。

アーティスト、マルチタレント。

T.Kレコード所属RISE-1のメインボーカル。

山本 登(やまもと のぼる)。山本道場師範。修也の父親。絵里や紗絵の恩師。

山本 千鶴(やまもと ちづる)。修也の母親。

山本 修也(やまもと しゅうや)。のちに紬の幼馴染となる人物。初恋の人は茅ヶ崎 恵美。

沢田 水子(さわだ みずこ)。T.Kレコード会社マネージャー。紗絵の所属するグループRISE-1の担当マネージャー。

茅ヶ崎 恵美(ちがさき めぐみ)。

アーティスト、マルチタレント。紗絵と同じRISE-1のメンバー。紗絵とは親友でもありライバル。

佐々木 虎男(ささき とらお)。ギャング組織での一員。のちに紗絵の舎弟的存在となる。

藤堂 英玲奈(ふじどう えれな)。

美少女コンテストで紗絵が負けた相手。

美少女コンテストグランプリ受賞者。

紗絵より年齢は1つ上。

藤堂グループの令嬢。高飛車で性格は悪い。

安西 楓(あんざい かえで)。紬と修也と同年代で二人が高校生の頃に登場する人物。

紬の恋敵。

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