第83話 惨め

文字数 2,171文字

11月の終わり頃になるとRISE-1は新曲「snoweyes」を発売し、


オリコンは初登場第1位と夏の映画ガンダムPIECE主題歌「never give up」に続き2曲連続首位となった。


この曲がメンバーの成瀬 紗絵がイメージキャラクターを務めるスノーボード用品のCMテーマソングとして使われ、今年の冬の代表曲として、一躍脚光を浴びた。


私が新登場のエマ・リリス役を務める映画ガンダムPIECE FINALの台本はすでに受け取っており、散々読み尽くした。


髪もオーディション最終選考の時に言われていた通り、伸ばし続けていた髪を結構バサッと切った。


小学生の頃とおなじくらいの髪の長さになった。


紗絵ちゃんには口うるさく、もっと沢山読まなきゃ駄目だとか、目の前でセリフを言ってみてとか読み合わせしてあげようかとか言われたけど、私はウザいと思って、言うことを聞かなかった。


自分の中でやったつもりになっていただけ…



そしていよいよ、私の映画ガンダムPIECE FINALのクランクインの日を迎えた。


学校は今日は私は欠席。


ちゃんと今日の撮影箇所のセリフは全て暗記しているし問題ない。



主演の紗絵ちゃんのすぐ横で、ヒーターで温まりながら撮影現場にいる私。


私達キャストと反対側にはエキストラの人達等がいる。


かつては私もあちらから紗絵ちゃんを応援して見ていることしかできなかった。


でも今は違う。


キラキラした華々しい世界で、多くの人に注目され、憧れられる側に私は立っている。


(私は他の人と違う。こちら側の人間なんだ。)


待機場所がエキストラの人達と違うだけで自分が大物になったかのように勘違いしていた…


そして、私は協力してくれているエキストラの人達ですら見下していた…


どんなに頑張っても所詮そちら側の人間では、こちら側には来れないよ、残念って心の中で思っていた…


ストーリーは前作でガンダムPIECEに乗りエースパイロットだったサラ・メンデス(成瀬 紗絵)が大人になり結婚し、今は軍人でもしばらくガンダムには乗っておらず、優秀なパイロットを育成する施設で教官をしているというところから始まる。


そして優秀なパイロットの筆頭になるのが私の演じるエマ・リリス。


エマ・リリス(成瀬 紬)はかつてサラ・メンデス(成瀬 紗絵)が乗るガンダムPIECEが守りきれなく、崩壊した街の出身。


家族はサラ・メンデス(成瀬 紗絵)が守りきれなかった街で全員失っている。


そして、そのことを強く恨んでいるという所から始まる。

教室の中で教壇に立つ、サラ・メンデスにエマリリスが楯突くシーンから撮影が開始される。
独特の空気と初めて味わう緊張感…


現場の雰囲気に飲まれていった…

みなさん。今日から、みなさんの教官となります、サラ・メンデスです。よろしくお願いします。
紗絵ちゃんが演じるサラ・メンデス(教官)が自己紹介し、パイロットアカデミーの生徒達が自己紹介をしていくシーン。
私の演じるエマ・リリスの番。
エマ・リリスです!!デトロ街出身です!!


教官が守れなかった街で私は家族も友人も家も全て失いました。


私はあんたとは違う!!必ず全てを守り抜いてみせる!!


だ、だから

噛んだのでカットになった…
佐々木監督に怒鳴られる…
おい!!こんな最初のシーンで何やってんだよ!!


お前何覚えてきたんだよ!!


ふざけんなボケ!!

私は最初のシーンだけで5回もやり直しをした…


他の人もそういう事もあるけどせいぜい1,2回…


紗絵ちゃんに関してはセリフが長くてもノーミス…


私はセリフが長くなれば長くなるほどミスをした…


そしてそのたびに佐々木監督に怒鳴られ暴言をはかれる…


私はここ何年も褒められることしかなく、怒られたことはなかったので、余計に萎縮してしまった…

現場に流れる私がダメダメじゃんみたいな雰囲気…


自信満々に来たのにこのザマ…

午前の撮影が終わりお昼休憩となる…


撮影現場の学校の教室の中でお弁当が配られる…


私と紗絵ちゃんは席が隣…


でも、紗絵ちゃんは私に話しかけてくれることなく、向かいに座ったスタッフさんや他のキャストと色々と話をしている…


前作のスタッフが中心となっているためか、紗絵ちゃんはスタッフさん達とも仲が良い。


私は一人しょんぼりとしながらお弁当を食べる…

(私だって話に混ぜてくれたっていいじゃん!!紗絵ちゃんは現場慣れしてるからいいけど、私は初めてなのになんで助けてくれないの!!)
ちょっとムッとしたので紗絵ちゃんに私は突っかかった。
紗絵ちゃんはなんで私がいないような扱いするの!!


私初めてで、良くわかんないんだよ!!


ちょっとくらい助けてくれたっていいじゃん!!

今の方が勢いあって、エマ・リリスっぽくていいんじゃない?(笑)


甘えないで。ここは職場。学校でも家でもないの。


人に助けを求める場所じゃないの。


ここにいる以上はあなたは選ばれたプロ。


初めてだろうが10年目だろうが関係ないの。


わからないなら、自分から聞きなさいよ。アカデミースクールじゃないんだから誰も手取り足取り教えてなんてくれないよ。

周りの人達がそんな冷たくしないであげてくださいよとか、そう紗絵ちゃんに言っていたが、紗絵ちゃんは私に態度を変えることはなかった…
私は自分が情けなくて惨めで仕方なかった…
※成瀬 紬 13歳


映画ガンダムPIECE FINAL


エマ・リリス役

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登場人物紹介

成瀬 紬(なるせ つむぎ)。

物語の主人公。紗絵の姪。内気で気弱。

成瀬 紗絵(なるせ さえ)。紬の叔母。

アーティスト、マルチタレント。

T.Kレコード所属RISE-1のメインボーカル。

山本 登(やまもと のぼる)。山本道場師範。修也の父親。絵里や紗絵の恩師。

山本 千鶴(やまもと ちづる)。修也の母親。

山本 修也(やまもと しゅうや)。のちに紬の幼馴染となる人物。初恋の人は茅ヶ崎 恵美。

沢田 水子(さわだ みずこ)。T.Kレコード会社マネージャー。紗絵の所属するグループRISE-1の担当マネージャー。

茅ヶ崎 恵美(ちがさき めぐみ)。

アーティスト、マルチタレント。紗絵と同じRISE-1のメンバー。紗絵とは親友でもありライバル。

佐々木 虎男(ささき とらお)。ギャング組織での一員。のちに紗絵の舎弟的存在となる。

藤堂 英玲奈(ふじどう えれな)。

美少女コンテストで紗絵が負けた相手。

美少女コンテストグランプリ受賞者。

紗絵より年齢は1つ上。

藤堂グループの令嬢。高飛車で性格は悪い。

安西 楓(あんざい かえで)。紬と修也と同年代で二人が高校生の頃に登場する人物。

紬の恋敵。

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