第183話 ALL T.K-nation(FLASH BACK)

文字数 2,515文字

控室に着くと千春ちゃんは倒れ込んだ。マネージャーさんやスタッフさんが来て、とりあえず横になった千春ちゃんの身体を冷えピタや氷を入れた袋を使って冷やす。
体調の悪そうな千春ちゃんが私に話しかける。
ごめんなさい紬さん…皆さん…


私…昨日から本当は熱出してて…


黙ってた…

大丈夫?この先は無理しない方良いんじゃないの?後に響くよ?スケジュールだって詰まってるんでしょ?
自分でそう言っておきながら8年前のことを思い出す…


私は大雨の中、後のことは考えずにあの時突き進んだ…


大人になって、この先の詰まったスケジュールを気にするようになってしまった…

大丈夫…私はやれるよ…次の出番まで少し休めば、まだまだ大丈夫だから…


紬さんありがとう…機転利かせてくれて…


足引っ張ってごめんね…おかげでコケなくて済んだ…

そんなこといいから、今はゆっくりしなね。


無理だけはしないようにね。

私は次の出番、ギリギリまで付き添う。


他のアーティスト達が歌い、どんどん進んでいくと、次の千春ちゃんの番が近づいてきた…


再度化粧や髪型を整え着替え終わった千春ちゃん。

紬さん。Charlotteの出番終わって、ソロの自分の出番もあるのに、付き添ってくれてありがとう…


もうすぐ出番だから行くね。

さっき倒れ込んだとは思えない姿になり、千春ちゃんはステージ裏に移動を開始する…


千春ちゃんの次は私、早めに準備をして付き添う。


何が彼女をそこまで奮い立たせるのだろうか…

本当に大丈夫なの?無理はしないようにね。
紬さんにだけ、マネージャーいないから、本心言うね。体調は良くないから辛い(笑)


でも、後悔したくないんだ。4年後にこの場があるかわからないし、私が出ることが確約サれてるわけでもない。


だから、無理してでもやりたいの。たくさんの人達が待ってる。


アトランティックスターズだったみんなの前で格好悪い姿は見せられない。最初ちょっと格好悪い姿見せちゃったから、名誉挽回してくる(笑)


それに万が一、どうしようもないときは、さっきみたいに紬さんがなんとかしてくれるでしょ?(笑)


ここからはソロだけど、私は一人じゃない。


じゃあ行ってきます♪

そう言って、千春ちゃんはステージへ出ていった。


大歓声の中、成瀬 千春は今度はミスなく自身のソロデビュー曲となる「Crossroad」を歌い切って、体調不良を感じさせないパフォーマンスで裏へ戻ってきた。


汗はびっしょり…私とすれ違う時にはフラフラしていた。

どうだった…?今度は…ちゃんと…出来たよ…

よく頑張ったよ。たぶん見てる人にはわからないよ。


次は最後の出番があるでしょ?


早く控室で横にならないと(汗)

私との会話が終わると、千春ちゃんのマネージャーさんが来て千春ちゃんを連れて行った。


私は自分の出番で自分の一番のヒット曲「絆」を歌い終える。


私が歌い終える頃…さっきまでの晴天が嘘のように空は暗くなり始めていた…8年前の時と同じように…

私は控室に戻る。


私と千春ちゃんの控室は一緒。横になって、再び身体を冷やしている千春ちゃん。


そこには紗絵ちゃんがいた…

お母さん、どうしてここにいるの?
私も元ここの事務所のタレントだからね。


ちょっと気になったから、入れてもらったら、紬気づいてたなら、何で千春ちゃんに無理させてるの?


上の判断すぐにあおいで、無理はさせないほうがいいでしょ。


仮にも同じユニットで、最初の段階で気づいたでしょ?


トップバッターの時は凄く機転が聞いてて、紬もさすが女王と呼ばれる立場になっただけのことはあるなと思ったけど、これじゃ後輩のこと助けたことにならないよ。

でも…次の出番で最後だし、最後までやらせてあげたいでしょ。
気持ちはわかるけど、売れっこの千春ちゃんのこの先のスケジュールは詰まってるに決まってるでしょ。


とめるべきだよ。ここで頑張ることだけが本人のためになるとは私は思えない。


そして、千春ちゃんは今、紬と肩を並べて一番良い時期。


絶対に先のことを考えたほうがいい。

私と紗絵ちゃんが会話している間にも

ALL T.K-nationのプログラムは進んでいく…

空からは雷が鳴って雨がポツポツと降り出したらしい…スタッフさんたちがてんやわんやしているみたいで騒がしい…
雨は次第に強くなっていく…
雨が強くなってきたなら、私もやめたほうがいいと思いはじめる…紗絵ちゃんと私の静止を気にせず、千春ちゃんは着替えさせられたり、化粧をなおされたりして準備を開始。
本当に行くの?中止かもしれないよ?
風邪こじらせたら大変だよ?
ご心配ありがとうございます…


でも行きます…実は私8年前テレビで見たんです…


大雨の中、歌う紬さんの姿を。


私は今中断されたこの時間を当時の紬さんのように会場の皆さんと一体となってきたいと思います。


言ってたじゃないですか、感謝すること、自分自身も楽しむこと、自分に負けないでって。

そういうと千春ちゃんはスタッフさんに中断されたために何名かの順番をすっ飛ばして自分をいかせてほしいと言って、プログラムの急な変更が許可され出ていった…
紗絵ちゃんは「しょうがない子だなぁ」といって戻っていき、私はそれ以上何も言えなかった…


ステージ裏から千春ちゃんを見守る…

観客席からは帰ろうとし始めていたお客さん達が戻ってきた姿が見える…
曲がかかりずぶ濡れの中、私と同時期に発売された曲「new era」を熱唱する千春ちゃん。


会場は大歓声の中、成瀬 千春色に染まる…

8年前を思い出し、当時の自分と千春ちゃんの姿が重なる…


今の私には出来ない…


私もやるって言いたいのに言えない…


歳を重ね、勢いだけで動けなくなった自分…


先に入っている仕事に穴があけれないと思って行動出来ない自分がもどかしいだけじゃなく、悔しい…

※藤堂 紗絵(成瀬 紗絵)37歳


ALL T.K-nation 観客として鑑賞

※成瀬 紬(藤堂 紬)26歳


ALL T.K-nation 当時のレコード大賞最優秀賞受賞曲「絆」歌唱時

※成瀬 千春(冬月 千春)21歳


ALL T.K-nation 自身ソロデビュー曲「Crossroad」歌唱時

※成瀬 千春(冬月 千春)21歳


ALL T.K-nation新曲「new era」歌唱時

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登場人物紹介

成瀬 紬(なるせ つむぎ)。

物語の主人公。紗絵の姪。内気で気弱。

成瀬 紗絵(なるせ さえ)。紬の叔母。

アーティスト、マルチタレント。

T.Kレコード所属RISE-1のメインボーカル。

山本 登(やまもと のぼる)。山本道場師範。修也の父親。絵里や紗絵の恩師。

山本 千鶴(やまもと ちづる)。修也の母親。

山本 修也(やまもと しゅうや)。のちに紬の幼馴染となる人物。初恋の人は茅ヶ崎 恵美。

沢田 水子(さわだ みずこ)。T.Kレコード会社マネージャー。紗絵の所属するグループRISE-1の担当マネージャー。

茅ヶ崎 恵美(ちがさき めぐみ)。

アーティスト、マルチタレント。紗絵と同じRISE-1のメンバー。紗絵とは親友でもありライバル。

佐々木 虎男(ささき とらお)。ギャング組織での一員。のちに紗絵の舎弟的存在となる。

藤堂 英玲奈(ふじどう えれな)。

美少女コンテストで紗絵が負けた相手。

美少女コンテストグランプリ受賞者。

紗絵より年齢は1つ上。

藤堂グループの令嬢。高飛車で性格は悪い。

安西 楓(あんざい かえで)。紬と修也と同年代で二人が高校生の頃に登場する人物。

紬の恋敵。

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