第192話 THE forgotten Queen(忘れ去られた女王)
文字数 1,965文字
講師の先生は当時と変わらない人達が多く、先生達も当時より歳を取っていた。
そして紗絵ちゃんや私を見ると驚いていた。
若い子が多い中で、紗絵ちゃんがいない日は私は最年長…
アカデミーの生徒達は、そんなおばさんの私にも色々と話しかけてくれたりして、休憩中一緒にお昼をみんなで食べながら話すと成瀬 千春を目標に頑張っている子が多いことがわかった。
話題にも出た成瀬 千春の横浜スタジアムでのライブ「NNN(トリプルエヌ)」。
成瀬 千春ならもっとキャパ数の多いスタジアムとかの方がいいはずなのにということを言うアカデミーの生徒も多かった。
何で横浜スタジアムなのか。私は千春ちゃん本人にレッスンを受け始めてから、メールで聞いていたので知っている…
紗絵ちゃんの出身が横浜だから。それだけらしい…
今や若者のカリスマとして絶対の位置に立ち、トップに君臨し続け、女王と呼ばれ続けている成瀬 千春が未だに成瀬 紗絵を崇拝しているというのだから凄い…
本人から聞いたなんてアカデミーの生徒達に言えないし、何でだろうねって知らないフリをすることしかできない私。
アカデミーの生徒達は最近一緒にレッスンを受けている、紗絵ちゃんの話を始めた。
何であの歳から急にレッスン受けてるんだろうねとか、女優さんか何かでドラマの役作りなのかな?とか言われていた。そんな話になると、でも、あの人ドラマで見たことないよ?とかも言われている。
そして紗絵ちゃんと仲の良い私は決まって聞かれる、昔から知ってるんですか?って…
私の今の苗字は山本。まさか旧姓は藤堂 紬だなんて、ここのアカデミーの若い子たちが知るわけもないので、親子だとは思われていない。
それに紗絵ちゃんは1つだけ嘘をついている…
最初にレッスンを受けに現れた日、若い子達に年齢を34歳だと言った…実年齢より10歳も下…
私は変な見栄張るなよって思ったけど、若い子達は34歳だと言われて信じた…むしろもう少し若いのかと思われていたらしい…
レッスンを受けていてお母さんって呼ぶのはどうなのかなと思って、そういうときだけは私は紗絵ちゃんと呼ぶようにしていた。
だから、周りは私が昔からの藤堂 紗絵の知人だと思われている。最初、私も25歳くらいだと思われていた。年齢は33歳だと言うとビックリされたが若く見られて喜ぶなんておばさんになってしまった証なのかそれは嬉しかった。
今の子達が知らなくてもおかしくはない…紗絵ちゃんが若くて活躍していた頃は、アカデミー生達は下手すると生まれてない子すらいるんだから…
(みんなは知らない、こんなに近くに成瀬 千春が崇拝する、かつての女王の成瀬 紗絵がいるのに…)
そう思うと時代の移り変わりを実感して、少し寂しい気持ちにもなる…
講師の先生方や昔からいる職員の人以外は、このT.Kアカデミー東京校では私しか、今の成瀬 千春と同じように当時は、成瀬 紗絵が皆に憧れられ、目標とされ、街はその人で一色に染まっていたことを知らないのだから…
紗絵ちゃんはレッスンを受けに来たとき、
藤堂 紗絵と名乗っており、ここでは、歳をとっても夢を目指している人だと解釈されたみたいだ…
本人もそれに合わせてるのか何なのかはわからないけど、成瀬 紗絵だと名乗ることは無い。
私も山本 紬と名乗っており、東京校でレッスンを受けても、私が昔T.Kレコード事務所に所属していた時の話をしてこないので、気づかれてないんだと思うし、それで良いと思ってる。
たまに、街で同世代くらいの人に成瀬 紬さんですかって話しかけられることは未だにある。
でも、私は決まって言うようにしている…「よく似てるって言われます♪山本 紬なので人違いですよ。下の名前が同じなので自分でもびっくりします」って…そう言うと大概の人は人違いでしたすいませんって言って去っていく…
苗字が違うだけで全然人の印象は変わるものなのだろうか?
知っている講師の先生はたまに当時の話なんかをしてくることもあるけど、みんなの前でその話をされたことはない。
紗絵ちゃんは千春ちゃんと同じでストイックな人だ。おちゃらけているようにしてても、レッスン以外でも陰で努力してるに違いない。
ボイトレを行う度、声は当時の成瀬 紗絵に戻りつつあるし、ダンスレッスンでは、34歳と偽りながら、実際は44歳の身体なのに若い子達についていっている…
私は思うんだ…この人と同世代じゃなくて良かったなって…
T.Kアカデミー東京校レッスン中