第111話 絵里と保 その2

文字数 2,026文字

でね、お姉ちゃんが頭を下げて付き合うことになった日からちょっとしてすぐ春休みになって3年生になったんだって。


そして保さんはお姉ちゃんは何も言わなかったから、知らなかったらしいんだけど、友達から言われたんだって、お姉ちゃんがテスト前に寝込んで当日のテストは微熱がある状態で受けてたって。


そんな状態の人に1点差だなんて、自分は勝ったわけじゃないって思ったんだって。

うんうん。それでそれで?
だから、学校の帰りに言ったんだってお姉ちゃんに。


何で体調不良でテスト受けたこと言わなかったのかって。


こんなの違う。無理して付き合わなくていい。テストはただの口実にしか過ぎなくて、本当に好きなんです。


この場所で告白しますって言って普通に振ってもらっても構わないですって言って、好きです付き合ってくださいって言ったんだって。

そこでじゃあお父さんはちゃんと告白したんだね、


それでお母さんがオッケーしたってこと?

その場所がね、大きな桜の木の下で少し風がある日で凄く花びらが舞ってたって、言ってた。


私ね、その場所が何処か知ってるの。


私もね、昔付き合ってた彼氏にそこで告白されたの(笑)


その場所何で知ってるのか、保さんに教えたら、姉妹で偶然だねって言って、驚いてた。


私もビックリしたけどね(笑)


でね、お姉ちゃんはね、オッケーしたんだって。


保さんが言うには、たまたまシチュエーションが良かったのかなぁとか、振られる前提で告白したからかなぁとか絵里の機嫌が凄くいい日だったのかなぁとか言ってた。

何でオッケーしたのか真相は分からずって感じか。
まぁお姉ちゃんにしかわからないことだから、わからないけど、私、保さんに言ったんだ。


本人にしかわからないことですけど、見た目がタイプだったとか、誠実な人だと思ったとか、もともとお姉ちゃんも保さんを好きだったんじゃないですかって。


出なきゃ、毎度告白されてずっと振り続けている人がオッケーしないですよって(笑)

お父さんはそれを聞いてなんて言ってたの?
ちょっと照れてたよ(笑)
英玲奈さんがオバサンならお父さんはオッサンなのに照れてたとかちょっとキモいね(笑)
そう?(笑)一緒に私を診察しに来る看護師さんとか、保さんのこと好きそうだけど?キモかったらモテないよ(笑)
付き合ってる時のこととかは聞いた?
そうそう、それが面白かったの。話は途中で終っちゃったんだけどね、ちゃんと告白して付き合って一番最初のデートは遊園地だったんだって。


保さん実は絶叫系とか苦手なんだって。


遊園地について一番最初にジェットコースター乗ろうって言われて、乗ったら、楽しそうなお姉ちゃんと対照的に死にそうになったって言ってた(笑)


次はコーヒーカップみたいなの乗ったら、お姉ちゃんが勢いよくグルグル回すから気持ち悪くなったんだって(笑)


でもみっともない姿を見せたくなくて、平然を装ってたら、お姉ちゃんは保さんがそういうの苦手だって気づいたらしいよ?

すごいね!(笑)青春だね(笑)


お父さんカッコ悪いね(笑)

保さんも言ってたよ。情けないし、カッコ悪いねって(笑)


でもさ、学生の頃の数少ない思い出だもん。


かっこ悪くても情けなくても、きっとお姉ちゃんと過ごした素敵な時間なんだよ本人にとっては。


お姉ちゃんはそんなこと私におしえてくれなかったから、失礼だけど聞いてて面白かった(笑)

紗絵ちゃんは?学生の頃の彼氏とどうして別れたの?
私の話?


私はね、仕事をとったの…


あのとき、私が仕事より彼を選んでいたら、今頃違う人生を歩んでいたかもしれないって思う時はあるよ。


後悔はしてないけどね。


私ね、初めて主演に抜擢された時ね、まだその彼氏と付き合っててね、撮影現場でろくにちゃんと仕事も出来ないくせに携帯ばっかりいじって返事を返して、浮ついて、プロとしての意識がまったくなかったの。


それでね、当時、紬も知ってる佐々木監督に言われたの。


見込み違いだった。撮りなおしになっても主演を変えたいくらいだって…

え?紗絵ちゃんがそんなときあったの?!
そうだよ。だから、紬にプロ意識がないとか実力不足とか本当は言える立場じゃないのに当時の私みたいに見えてあの時は言ったの。


沢田さんにも当時言われた。そんなんじゃもう次はないって。このまま主演も下ろされて当たり前って。現場のスタッフもみんな呆れてるって。


だからね、私はね、一方的に別れを告げて彼氏を捨てたの。


何か言おうとする彼の言葉すら聞きもしないで…


自分が成り上がるために…自分のためだけに…


当時の私には余裕がなかった。まだ10代だし、業界のことなんて全然わからないし。


言い訳にしか過ぎないんだけどね。


それからは仕事だけに打ち込んで主演降板は回避できたんだけどね。


紬は恋してる?

え?あ、え、私?(笑)


いや〜なんかよくわからないなぁ(笑)


いつかするよいつか(笑)


あ!コンテスト応募しなきゃ!

とっさに誤魔化してしまった…


その後は書類審査の応募の記入を済ませ、郵送で提出した。

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登場人物紹介

成瀬 紬(なるせ つむぎ)。

物語の主人公。紗絵の姪。内気で気弱。

成瀬 紗絵(なるせ さえ)。紬の叔母。

アーティスト、マルチタレント。

T.Kレコード所属RISE-1のメインボーカル。

山本 登(やまもと のぼる)。山本道場師範。修也の父親。絵里や紗絵の恩師。

山本 千鶴(やまもと ちづる)。修也の母親。

山本 修也(やまもと しゅうや)。のちに紬の幼馴染となる人物。初恋の人は茅ヶ崎 恵美。

沢田 水子(さわだ みずこ)。T.Kレコード会社マネージャー。紗絵の所属するグループRISE-1の担当マネージャー。

茅ヶ崎 恵美(ちがさき めぐみ)。

アーティスト、マルチタレント。紗絵と同じRISE-1のメンバー。紗絵とは親友でもありライバル。

佐々木 虎男(ささき とらお)。ギャング組織での一員。のちに紗絵の舎弟的存在となる。

藤堂 英玲奈(ふじどう えれな)。

美少女コンテストで紗絵が負けた相手。

美少女コンテストグランプリ受賞者。

紗絵より年齢は1つ上。

藤堂グループの令嬢。高飛車で性格は悪い。

安西 楓(あんざい かえで)。紬と修也と同年代で二人が高校生の頃に登場する人物。

紬の恋敵。

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