第165話 遠距離恋愛

文字数 1,933文字

紗絵ちゃんの結婚式が無事に終わり、月日は流れる…


T.Kレコード事務所にしては珍しく秋にしては珍しく辞令が出た…


そして、その辞令に書かれた名前の中に私もいた…


1年間、T.Kアカデミーの仙台校への転勤…


東京を離れることが嫌で正直悩んだ…


お父さんや紗絵ちゃんに相談すると、もう大人なんだし、自分で決めなさいと言われた…



今日、修也に休日で隣の山本家に相談しに来た…


浮かない表情の私に修也が聞いてきた…

また、何か悩んでんのか?


今度はどうした?

(言わなきゃないけど…言いづらい…いっそ仕事を辞めてしまおうか…いや、そんな責任感のないことできない…)
実はさ…T.Kアカデミー仙台校の職員に転勤になった…
しばし流れる沈黙…それが嫌で私は、また口を開いた…
いい機会だし、仕事辞めちゃおっかな(笑)


お父さんに頼んで藤堂の系列の会社とかで働かせてもらおうっかな(笑)

本当にそれでいいのか?今の仕事、何年も働いてて、辞めたいなんて聞いたことないぞ?


東京に居たいってのはわかるけど、しかたないんじゃねーか?

だってさ…修也はいいの?私が仙台行っちゃっても?


遠いんだよ?


あっちに行っちゃったら、そう何回もこっち来れないよ?

それはそうだけど…


新幹線で行ける距離だし、沖縄とか北海道なわけじゃないし。


側にいたいから仕事辞めるとか、そんなのいいことじゃないと思う。


一生東京から離れるわけじゃねーだろ?

1年間だけみたいだけど…


でも、1年って365日だからね。短いようで長いからね…


仙台に友達がいるわけでもなければ、修也と旅行で行ったくらいだからね…何にも知らない場所なんだよ?

1年か。でも、たった1年だぞ?



来年俺は6年間の医大生生活が終わる。


そしたら、研修医になるから、すぐ一人前の医者になるわけじゃねーけどさ、将来のことちゃんと考えてるから。


頑張ってみろよ?

何それ?将来のことって何?頑張ってみろよって、全然私のことはどうでもいいわけ?


じゃあいいよ!行けばいいんでしょ!あっちで知らない男の人と知り合っても知らないからね。

自分でも少しメンヘラみたいな言い方だなと言っていて思ったけど、もう何年も付き合ってきてるのに、なんか別に気にしてなさそうな修也の態度が少しかんに障った…
ムカついて、部屋を出ようとした、私の手を修也が掴んだ…


(頑張ってみろよって言ったくせに、なんなんだよ!)

手を振りほどこうとする私に修也が言った…
将来のことって、ちゃんと結婚のこととかだから。


研修医だと養えって言われても、どうなんだろって感じかもしれねーけど、ちゃんと考えてるから。


だから、1年間お互いに頑張ろうってこと…

なんか…一人で勝手にヒステリックになってごめん…
そういうこと考えてくれてないと思ってたから…


そう言われて、少し頑張ってみようと思った…


単純なやつかもしれないけど…

そりゃあ俺も別に行って欲しいわけじゃねーけど、せっかく就職して、ずっと働いてきたのに、もったいないだろ?


辞めるのは簡単だけど、続けるのって難しいだろ?


仙台1年間だけなんだしさ。医者になったら出世払いで返すって言って、父ちゃんと母ちゃんに、新幹線代も出してもらうよ(笑)


あと、紗絵姉が昔買った車も借りれるしさ。車でも行けるし。免許あるからさ。

そうだね。頑張ってみるよ。
そして、私は転勤を受け入れ、1ヶ月後みんなに見送られて、T.Kアカデミー仙台校の職員として1年間転勤となった…


仙台に転勤する前に千春ちゃんのお母さんに会いに行った…


千春ちゃんは1年生の頃は聖心高に通っており、記憶が戻っていないことも聞いていた、2年生の頃はもう東京にはいなくて仙台にいると聞いていた。


去年も今年の夏も帰省の時にはタイミングが合わなくて会えなかった…


今も千春ちゃんは仙台にいて記憶は戻っていないらしい。


現在は高校3年生とのこと。大学進学を目指しているらしい。


どこの大学を受けるのかは、わからないけど、千春ちゃんのお母さんに1年間、仙台に転勤になりましたと伝えたら、千春ちゃんの通う高校と住んでいるアパートの住所を教えられ、会ってあげてほしいと言われた。


記憶のない千春ちゃんの前に私が現れても、また、誰?って言われそうだけど、向こうに着いたら、今度行ってみようと思った。

アトランティックスターズが解散して、3年経つ…


千春ちゃんが好きだった成瀬 紗絵も引退した…


修也とは遠距離恋愛になるけど、よく考えてみれば今の時代テレビ電話も出来るし、1年間なんとかなるかな、なんて思う。


そして、私が知っている中学生の千春ちゃんではないし、記憶もないだろうけど、少しでもいいから話が出来たらいいな…


仙台に向かう新幹線の中でそんなことを考えていた…

※藤堂 紬 23歳


休日 隣の山本家にて

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登場人物紹介

成瀬 紬(なるせ つむぎ)。

物語の主人公。紗絵の姪。内気で気弱。

成瀬 紗絵(なるせ さえ)。紬の叔母。

アーティスト、マルチタレント。

T.Kレコード所属RISE-1のメインボーカル。

山本 登(やまもと のぼる)。山本道場師範。修也の父親。絵里や紗絵の恩師。

山本 千鶴(やまもと ちづる)。修也の母親。

山本 修也(やまもと しゅうや)。のちに紬の幼馴染となる人物。初恋の人は茅ヶ崎 恵美。

沢田 水子(さわだ みずこ)。T.Kレコード会社マネージャー。紗絵の所属するグループRISE-1の担当マネージャー。

茅ヶ崎 恵美(ちがさき めぐみ)。

アーティスト、マルチタレント。紗絵と同じRISE-1のメンバー。紗絵とは親友でもありライバル。

佐々木 虎男(ささき とらお)。ギャング組織での一員。のちに紗絵の舎弟的存在となる。

藤堂 英玲奈(ふじどう えれな)。

美少女コンテストで紗絵が負けた相手。

美少女コンテストグランプリ受賞者。

紗絵より年齢は1つ上。

藤堂グループの令嬢。高飛車で性格は悪い。

安西 楓(あんざい かえで)。紬と修也と同年代で二人が高校生の頃に登場する人物。

紬の恋敵。

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