第185話 女王 成瀬 紬、最後の時間

文字数 2,054文字

秋になると私は引退前に最初で最後となるデビューから前回10thシングルまでの10曲のシングルが収録されたアルバム「History」が発売される。


アルバムの売れ行きは絶好調。


それに伴い、11thシングル

「Flap your wings」も再注目され、売上枚数を伸ばし、秋までの時点で「Flap your wings」は売上枚数が207万枚、成瀬 千春の「new era」は205万枚となった。

その後も越しては越されての展開が続く。


面白い展開になったからか、メディアにはよく取り上げられた。

そして過ぎていく時間…


年末になり、成瀬 紬の「Flap your wings」の売上枚数は238万枚。


成瀬 千春の「new era」の売上枚数も238万枚。ともに今年一番の売上枚数となった。


さまざまな音楽のタイトルが発売され、受賞したタイトルは半々…8年前とまったく同じ展開となった…

もうすぐ決着は着く…来年私はもう芸能界にはいない…


日本レコード大賞の優秀賞には、2曲ともノミネートされている。

迎えた日本レコード大賞の受賞式当日…


千春ちゃんも私もスタジオで歌唱することになっているので、現場入りし、準備をする。

緊張するね(汗)8年前と同じだね…


あの時と違って、紬さんは紗絵さん側になったけどね。

(当時の紗絵ちゃん側か…私も歳をとったんだな…)
そうだね。不思議な巡り合わせだね。泣いても笑っても、私にとっては最後…


成瀬 紗絵の時と違うのは、勝ち逃げじゃないからね(笑)

負けるつもりはないけど、万が一、私が負けたら、紬さん落ち着いたらでいいから、続けようよ?(笑)
それはない(笑)千春ちゃんのお願いでもそれは聞けない(笑)
その話は置いておいて、本当は寂しいんだよね…


紬さんの人生だから、私にはどうしようも出来ないけど、私…紬さんが引退したら、この先どうしていけばいいのか…


3年間あっという間だったから…


紬さんが引退しても、たまに会いに行ってもいい?

大丈夫だよ。私がいなくなっても、成瀬 千春は今まで通り活動していけばいいんだよ。


私が成瀬 紗絵から学んだことは、すべて成瀬 千春に伝わったと思うし、成瀬 千春はきっと、成瀬 紗絵も成瀬 紬も越えていく。


あとは任せたよ。今日どっちの曲が最優秀賞作品に選ばれたとしても、私、成瀬 紬は成瀬 千春にバトンをつなぎます。


いつでも遊びにおいで♪忙しくも時間取れる時はね♪

8年前とは違うこと…


私は挑戦者から挑戦される側になった…


そして、挑戦者は成瀬 千春…彼女はもう挑戦者じゃない。全てが横並びになったライバル。


消えた天才、白石 千春はさらに成長し改名し、成瀬 千春となった。


13歳のデビュー前から彼女を知る私。まさか自分が千春ちゃんと競い合うことになるなんて、当時は夢にも思っていなかった…


時が流れるのは早い。当時は13歳で素人だった白石 千春。私は当時一度引退し、T.Kレコード事務所の職員。


自分がスカウトしたダイヤモンドの原石が8年の時を経て、今、様々なタイトルを得て日本一のアーティストに登りつめようとしている。


アーティスト、女優、モデルと活躍するその姿を見ると、成瀬 千春は私の知る、

成瀬 紗絵と瓜二つだ…


再び成瀬同士の勝負に挑むことになるなんて…どこで何があるか分からないものだ…


私は勝っても負けても、引退する。それは変わらない。


そして今度はこの舞台に帰ってくることは二度とないと思う。


間もなく研修医を終える、交際相手の山本 修也に私は先週プロポーズされた。


もちろんプロポーズは受け、婚約指輪を受け取った…


家族や山本家、親しい友人、そして千春ちゃんしか知らないけど、私は今妊娠している…


妊娠して1ヶ月なので、特に見た目に変化はない。


引退したら、後に、私は母親になる。今日は私にとって、本当に最後の成瀬 紬の時間なんだ…

一度は普通の人になりたいって逃げた世界…


でも、再び私はここにいる…


まだ、もう少しだけ、最優秀賞作品が発表されるその時までは、現女王 成瀬 紬でいさせてほしい…

次々と賞が発表され、いよいよクライマックス、優秀賞の中から、最優秀作品が選ばれる瞬間…


あの時の紗絵ちゃんと私と同じで千春ちゃんと私は隣同士の席…


お互いに少しソワソワし緊張している…


今年の日本レコード大賞 最優秀賞は…


いよいよ発表の瞬間…


















成瀬 千春の「new era」だった…

最後に涙ではなく、笑顔で歌う千春ちゃんを席から見る私…


嬉し泣きではなく、笑顔で最後を飾る千春ちゃんを見て思い出す…


8年前の自分もそうだった…嬉し泣きはせずに私もあの場所に立った…



私はあたたかい涙が頬を伝うのを感じる…


(私…引導を渡されちゃったな…まな弟子に…)


嬉しい気持ちと悔しい気持ちが入り混じる…


(おめでとう…千春ちゃん…)


あのときの紗絵ちゃんの涙も同じだったのかな…

※成瀬 千春 21歳


日本レコード大賞 


最優秀賞受賞 「new era」歌唱時

※成瀬 紬 26歳


日本レコード大賞


優秀賞「Flap your wings」歌唱時

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

成瀬 紬(なるせ つむぎ)。

物語の主人公。紗絵の姪。内気で気弱。

成瀬 紗絵(なるせ さえ)。紬の叔母。

アーティスト、マルチタレント。

T.Kレコード所属RISE-1のメインボーカル。

山本 登(やまもと のぼる)。山本道場師範。修也の父親。絵里や紗絵の恩師。

山本 千鶴(やまもと ちづる)。修也の母親。

山本 修也(やまもと しゅうや)。のちに紬の幼馴染となる人物。初恋の人は茅ヶ崎 恵美。

沢田 水子(さわだ みずこ)。T.Kレコード会社マネージャー。紗絵の所属するグループRISE-1の担当マネージャー。

茅ヶ崎 恵美(ちがさき めぐみ)。

アーティスト、マルチタレント。紗絵と同じRISE-1のメンバー。紗絵とは親友でもありライバル。

佐々木 虎男(ささき とらお)。ギャング組織での一員。のちに紗絵の舎弟的存在となる。

藤堂 英玲奈(ふじどう えれな)。

美少女コンテストで紗絵が負けた相手。

美少女コンテストグランプリ受賞者。

紗絵より年齢は1つ上。

藤堂グループの令嬢。高飛車で性格は悪い。

安西 楓(あんざい かえで)。紬と修也と同年代で二人が高校生の頃に登場する人物。

紬の恋敵。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色