第161話 アトランティックスターズ失った柱

文字数 2,268文字

それからの1年アトランティックスターズは大活躍。


初の単独全国ホールツアーも無事にチケット完売で次のステップを目指せると思いっていた。


アイドルの部門ではまさしくアトランティックスターズの右に出るグループはないと言えるほど、圧倒的な人気を手に入れつつあった。


この1年はやはり白石 千春の女優業進出やモデルやグラビアでの活躍が大きかった。


女王として32歳になった成瀬 紗絵はまだトップの座からは誰も引きずり降ろすことは出来ず、以前として女王と呼ばれ続けていた。


そんな成瀬 紗絵に挑むことができるのはきっと若手の中ではアトランティックスターズだと業界でも言われるようになっていた。

売れっ子となった白石 千春は多忙を極めた…


ほぼ休みが無い中でも、偏差値72の聖心中での成績上位者も維持していたのだから、凄い…

千春ちゃん本人は弱音を吐くことは絶対になくストイックな所は売れても変わらない。


女優として高い演技力の評価を得ていた当時の成瀬 紗絵にひけを取らない、もしくはそれ以上の逸材だと白石 千春は業界内での評価はうなぎのぼりだった。


千春ちゃんが中学3年生になると、附属の聖心高への進学は問題ないとのことだった。


中学3年生になり、より白石 千春はより美しく輝きをはなっていた…若者のカリスマになるのは時間の問題という位置まで来ている…


私だけじゃなく業界では間違いなく白石 千春の時代が来ると確信され始めた頃に、事件は起きた…

私は急いで病院に向かう…


千春ちゃんが学校帰りに交通事故にあったと連絡を受けた…


私が病院に駆けつけたときには、千春ちゃんの両親が既にいて、私はなんて声をかければいいのかわからなかった…


奇跡的に千春ちゃんは一命をとりとめた…


目撃者の話によると、赤信号にも関わらず普通に横断していたらしい…警察の調べで事故現場付近の監視カメラやドライバーのドラレコを検証した結果、確かに白石 千春は赤信号で横断していた…


事故当時、表情的に一種のうつ状態だったのではないかと専門家の人には言われていた…


仕事中の千春ちゃんはそんな様子を見せなかったが、多忙過ぎる上に名門中学に通い、精神的に少しおかしくなっていたのではないかと、精神医学の先生みたいな人の見解だった…

私はマネージャー兼プロデューサー失格だ…


周りや千春ちゃんの両親にも直截的に責められることはなかったが、自分を責めた…

でも、自分を責め続ける中でも、千春ちゃんが事故にあったことで仕事は色々とバタバタになった…


そして白石 千春が不在になったアトランティックスターズは4人で仕事をこなすが、センターで一番の売れっ子の柱を失ったグループは下り坂の道を進むことになる…

4人は千春ちゃんが戻ってくるまでって固く結束していた。


アトランティックスターズは強くたくましく成長し、女性だけだと色々と面倒なことも起きるものだが、5人の関係も良好な珍しいグループだった。


でも、白石 千春はもう…戻って来れない…


それを知ったのは、病院から面会の許可がおりたと連絡があり、初めて私が面会に行った時のことだった…

病室に入る前に千春ちゃんのお母さんから聞かされた…


事故の後遺症なのか、衝撃なのか原因は不明で、事故前の記憶は全てないとのこと…


両親のことすら忘れていて、最初誰?って聞かれたと言われた…

千春母「病室に行って、忘れられてても、気にしないでください…あと、紬さんにお願いがあるんですけど…」
紬「私でよければ…何でも行って下さい…」
千春母「たぶん、千春は復帰出来ないと思います…でも、記憶が戻ったら、その時はまた、仕事したいって言うかもしれません…もし、千春の記憶がもどった時の為に、私はちいさな個人事務所を設立してあげたいんです…私は素人なんでわかりません…事務所の上の人に相談してもらえますか?」
紬「わかりました…」
私はそれしか言えなかった…


自分の口からは言わなかったけど、千春ちゃんのお母さんは多分、千春ちゃんはもうT.Kレコード事務所に残れないことを業界素人なりに察しているんだろう…


もし、千春ちゃんの記憶が戻ることがあれば、事務所は間違いなく欲しがるだろう。


ただ現状はおそらく、引退…


記憶が戻るかもしれないでは確証がない…


そして、今何も覚えていないでは、どういう状況かもわからないし、復帰はないと私も思う…

お見舞いのフルーツ盛りや花を持ち、病室に入ると千春ちゃんがこちらを見ていた。
千春ちゃん。ごめんね…


何も気づかなくて…

私がそう言うと千春ちゃんは言った。
は?気づかない?何?


つうか、あんた誰?

千春ちゃんのお母さんから、聞いていた通り…


千春ちゃんは私が誰だかわからない様子…

千春ちゃんのいる、アトランティックスターズっていうグループのマネージャー兼プロデューサーの藤堂 紬って言います…
んなこと言われても、知らねーよ。


私からすれば、あんたのことわかんねーし。


話すの疲れるだけだから、帰れよ。

わかった…今日は帰るけど、今度、また来ていいかな?アトランティックスターズの4人と一所に来ていいかな?
アトランティックなんちゃらって知らねーし。


勝手にしろよ。早く出てけよ。

(一番最初に出会った頃の千春ちゃんみたいだな…)
記憶をなくした千春ちゃん…


いたたまれない気持ちになり病室を出た…

そしてすぐに4人のアトランティックスターズは仕事が減りだす…


センターの白石 千春がグループをどれだけ牽引していたのかが不在により、顕著に現れた…

※アトランティックスターズ 白石 千春

14歳 中学3年生


事故に遭い記憶喪失 病院にて

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登場人物紹介

成瀬 紬(なるせ つむぎ)。

物語の主人公。紗絵の姪。内気で気弱。

成瀬 紗絵(なるせ さえ)。紬の叔母。

アーティスト、マルチタレント。

T.Kレコード所属RISE-1のメインボーカル。

山本 登(やまもと のぼる)。山本道場師範。修也の父親。絵里や紗絵の恩師。

山本 千鶴(やまもと ちづる)。修也の母親。

山本 修也(やまもと しゅうや)。のちに紬の幼馴染となる人物。初恋の人は茅ヶ崎 恵美。

沢田 水子(さわだ みずこ)。T.Kレコード会社マネージャー。紗絵の所属するグループRISE-1の担当マネージャー。

茅ヶ崎 恵美(ちがさき めぐみ)。

アーティスト、マルチタレント。紗絵と同じRISE-1のメンバー。紗絵とは親友でもありライバル。

佐々木 虎男(ささき とらお)。ギャング組織での一員。のちに紗絵の舎弟的存在となる。

藤堂 英玲奈(ふじどう えれな)。

美少女コンテストで紗絵が負けた相手。

美少女コンテストグランプリ受賞者。

紗絵より年齢は1つ上。

藤堂グループの令嬢。高飛車で性格は悪い。

安西 楓(あんざい かえで)。紬と修也と同年代で二人が高校生の頃に登場する人物。

紬の恋敵。

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