第182話 ALL T.K-nation(自分に負けないで)

文字数 2,302文字

5月の最後の週の最初、私は11thシングルとなる新曲の「Flap your wings」をリリース。この曲は人気アニメの主題歌として起用される。


3日後、成瀬 千春が2ヶ月連続リリースとなる6thシングル「new era」をリリース。


千春ちゃんの曲は自身のCMソングとして起用された。


そして6月になりオリコンシングルランキングが発表されると、初登場第1位を飾ったのは、120万枚の売上からスタートとなった私の「Flap your wings」だった。


成瀬 千春の「new era」は105万枚の売上からのスタートで初登場第2位。


そんなに大差はないスタートとなったが、年末までどうなるかはわからない。


二人の他の曲が今年を代表する曲として選ばれるかもしれないし、他の人気アーティストがタイトルを獲得する可能性だってある。


まだ、千春ちゃんとの勝負は始まったばかり。


初動だけがすべてじゃないことは、私が1番よく知っているから…






そして、ALL T.K-nationのリハーサルを終え当日を迎えた。歴史が繰り返されることになるなんて、この時の私はまだ知らない…

当日、あの時と同じで味の素スタジアムは満席。


トップバッターは、私(成瀬 紬)と成瀬 千春(冬月 千春)が去年、期間限定で活動したユニットCharlotteの曲で始まる。


衣装に着替えて私達はステージ裏で待機中。

私、初めてのALL T.K-nationなので、少し緊張してる(汗)


今日、アトランティックスターズだったみんなも見に来てくれてるんだよ♪


今この瞬間は相棒ですけど、終わったら、ライバルに戻るからね(笑)

大丈夫だよ。千春ちゃんは一人でもライブしたり、いろんな大舞台にもう何回も立ってるでしょ。


いつも通りでいいんだよ。そうなんだ!かっこいいとこ見せなきゃね!


わかってるよ(笑)

初めての経験じゃないと言っても私もこのステージに上がったのは8年前。


やっぱり少し緊張はする…


だけど、もう紗絵ちゃんはいない…


今度は私が年下の千春ちゃんを引っ張ってあげなきゃない立場になった…


だから平然を装って、余裕があるように見せているけど…

私、大舞台って言っても、ライブはアリーナだよ?


ここはスタジアムで、凄いもっと人数いるし(汗)

アリーナでもドームでもスタジアムでも私達がやることは同じでしょ?


それにスタジアムはアトランティックスターズの時に経験してるでしょ?


弱気にならないの(笑)私の知ってる成瀬 紗絵っていう女王はそんなことで動揺しないんだよ。

千春ちゃんには今まで、私が紗絵ちゃんにの姿を見て、学んだようにCharlotteでの活動の時や、共演した時には、色々伝えてきたつもりだ…
アトランティックスターズの時は、紗絵さんのバックダンサーだったからね(汗)


その時はマイク持ってないし(笑)


紗絵さんは色々場数踏んでる人だからじゃないの?


紬さんこそ、よく平然としてますよね(汗)


トップバッターだよ?ここでコケるわけにはいかないだろうし(汗)


なんだかお腹痛くなってきた…(汗)

じゃあ、参考になるかわからないけど、私からアドバイス。


沢山来てくれて楽しみにしてくれている人達の為に何があっても感謝して臨むこと。


どんなに緊張する場面でも自分自身も楽しむこと。


そして、成瀬 千春は今一人じゃない。隣には私がいる。


だから、自分に負けないで。

自分に負けないで…人に言うより、このセリフは自分にも言いたいな…
私は幸せ者だね(笑)


色々教えてくれる人、励ましてくれる人が隣にいるから。


わかった。もっと強くなる。自分に負けないで、もっと高く羽ばたく。


今はね、少し負けてるけど、今年、最後に光輝くのは私になってみせる。


私、一人じゃないから。

お腹痛いの治ったの?(笑)


そうそう。その意気だよ。


今の私達をみんなに見せに行こう!

ステージの照明が暗くなった…時間だ…


多分、もう千春ちゃんは大丈夫。


私達はステージに向かった。

歓声が起き、曲がかかると私達は照明に照らされる。


チラッと千春ちゃんを横目に見ると表情が少し硬い…


(もしかして大丈夫じゃないかも?!)

私はアトランティックスターズのプロデューサー兼マネージャー、そして職員も経験し、それなりにその日のその人の体調や調子みたいなのもなんとなくわかるようになっていた…


リハーサルの時も千春ちゃんは少し体調が悪そうな気がしていた。


さっきはそんなことなさそうな気がしたけど、我慢してただけ?


周りに気づかれないように、もしかして我慢してた?



体調悪くないの?って聞けばよかった…


けど、曲は始まって、もうステージに立ってしまっている…


歌い出しは千春ちゃんなのに、出遅れてる…?


歌い始めると歌詞を間違えている…

1番前の席で見ている修也や友達達たち、そして、会場の人達が、少し困惑しざわつく…


同じく最前列にいるお父さんと紗絵ちゃん…


紗絵ちゃんと目が合う…


何か訴えているような目をしている…


(そうだね…私に出来ることやるよ。女王の意志を受け継いだ私を見てて…)

普通は人のパートを奪って歌うことなんてタブーなこと…


相棒が潰れかけているなら、これしかない…

千春ちゃんのパートなのに私も歌い出す…


リハーサルとは違う…


だけど、今は…

千春ちゃんは一瞬、え?って顔をしたけど、すぐに頷いて、理解したみたいだ。


このまま、最後までお互いのパートなんて気にしないで、二人で全部歌えばいい。

今までにない展開に、会場の人達は盛り上がってくれた。


無事になんとか歌い終えると、次のT.Kレコード事務所所属のアーティストへバトンタッチ。


私達はステージ裏へ行く。ふらつく千春ちゃんを支えて私は控室へ向かった…

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登場人物紹介

成瀬 紬(なるせ つむぎ)。

物語の主人公。紗絵の姪。内気で気弱。

成瀬 紗絵(なるせ さえ)。紬の叔母。

アーティスト、マルチタレント。

T.Kレコード所属RISE-1のメインボーカル。

山本 登(やまもと のぼる)。山本道場師範。修也の父親。絵里や紗絵の恩師。

山本 千鶴(やまもと ちづる)。修也の母親。

山本 修也(やまもと しゅうや)。のちに紬の幼馴染となる人物。初恋の人は茅ヶ崎 恵美。

沢田 水子(さわだ みずこ)。T.Kレコード会社マネージャー。紗絵の所属するグループRISE-1の担当マネージャー。

茅ヶ崎 恵美(ちがさき めぐみ)。

アーティスト、マルチタレント。紗絵と同じRISE-1のメンバー。紗絵とは親友でもありライバル。

佐々木 虎男(ささき とらお)。ギャング組織での一員。のちに紗絵の舎弟的存在となる。

藤堂 英玲奈(ふじどう えれな)。

美少女コンテストで紗絵が負けた相手。

美少女コンテストグランプリ受賞者。

紗絵より年齢は1つ上。

藤堂グループの令嬢。高飛車で性格は悪い。

安西 楓(あんざい かえで)。紬と修也と同年代で二人が高校生の頃に登場する人物。

紬の恋敵。

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