第76話 親子喧嘩、親の七光り

文字数 2,150文字

紗絵ちゃんに厳しい事を言われてから1週間後、私には一応、最終選考の案内が来た。


各会場から、おおよそ10名ずつ最終選考に残るらしいと噂で聞いた。


あくまで噂なので実際はわからないけれど、各会場から10名ほどという噂通りなら大体100名ほどが最終選考に残っている者となる。


そして役をもらえるのは100人中7名。


準主役のようなエマ・リリス役を手に入れられる人は100名のうち1人だけ。


紗絵ちゃんにどちらかと言うと酷評だった私が何故最終選考に残れたのかは不明。


衣奈さんも仙台会場で受けて、最終選考まで残ったらしく、最終選考は3週間後、東京で行われる。


私はレッスンは自分なりには頑張っている方だけど、講師の先生にはいつも、もう少し頑張りましょうみたいに言われていた…


そして、演技力は上達することなく、週末にレッスンがない時は遊びに行く私。


本当は役を掴むために何か努力をしなければ、いけないはずなのに、やることなすこと中途半端…


自分ではそんなことにまったく気づいていない…


でも、修也と一緒に出かけたくて、みんなとも一緒にいるのが楽しくて、何か予定を立てて出かける… 



ちょうど最終選考の1週間前。紗絵ちゃんは仕事が早く終わったのか、私が家に帰ると、リビングにすでにいて、私を見ると深刻そうな顔をしている。
どうしたの?なんか最近深刻そうな顔してばっかだよ?
紬。私遠慮してずっと言わなかったけど、ホントの親子になりたいと思うから、遠慮するのやめるね。


言いたいこと言うからね。

なに?なに?どうしたの紗絵ちゃん?(笑)


紗絵ちゃんは言いたいこと言ってなかったの?


最初こそあれだったけど、恵美ちゃん来てから、気を使ってるようになんて感じてなかったよ?(笑)

何にもわかってなくて、当然かもしれないけど、紬は何にもわかってない!

オーディションを舐めてる。私言ったよね?力不足だって。

そんな、一応最終選考まで残ってるよ?


紗絵ちゃんは主演ばっかり経験してきたんだから、私が力不足に見えるのはしょうがないし、言ってることもわかるけどさ、私なんてまだT.Kアカデミー入って1年もたってないんだよ?



その考えが甘いんだよ。


1年だろうが3年だろうが、そんなの関係ないの。


1年も通ってないのに凄いねーなんて子供の習い事じゃないんだから。


それにね、ぶっちゃけちゃうけど、紬が最終に残れたのは、私の娘だからなだけだから。 


制作会社のお偉いさんが親子共演とかなったら話題性が高まるかもしれないからってことで、ホントは審査員的には不合格なのに残されただけだから。


もちろん私も紬が合格の方には票は入れなかったよ。


だから、最終選考残ってるなんて紬の自分の実力じゃないの。

私はそれを聞いてちょっとショックだった…


こともあろうに私は自分の力の無さを棚にあげて、紗絵ちゃんに八つ当たりし始めた…

ひどいよ!!そんなこと聞かせてほしくなかったよ!!


紗絵ちゃんみたいな人には私の気持ちなんてわかんないよ!!


私だってそれなりに頑張ってるよ!!

それなりって何?


私言わなかったけどね、レッスンがなくて友達と遊んできまーすなんてやってるやつが受かるくらい甘いもんじゃないって言ってんの!!


なおさら力不足のくせに、レッスン受けてるだけでそれなりに頑張ってるの?


ただレッスン受けてればどうにかなるとでも思ってるの?


馬鹿じゃないの!!


紬が残されるかわりに落とされた人の気持ちとか考えられないわけ?


私、そういうのムカつくんだよね。

バカとか何? 


そんなに馬鹿なわけじゃないし!!


私が残るくらいで落とされるやつなんて、そんなレベルなんでしょ。知らないよ。


勝手にムカついてればいいじゃん。


私だってムカつくよ。

紬変わったね。やっぱり馬鹿だよ!!


昔太ってたときのほうが性格良かったよ。


今の紬は可愛くなったかもしれないけど、それにあぐらかいて、少しやったら、私頑張ったとか勘違いしてる、バカだね。


ハッキリ言ってあげるよ、あんたじゃエマ・リリス役は役不足。


親の七光りで抜擢されて、自分の実力で掴み取ったものじゃないものでチヤホヤされて嬉しい?


そんなんじゃ英玲奈さんみたいなもんじゃない。


血反吐はくくらい努力してみなさいよ。

紗絵ちゃんに何か言われるたびにムカついてくる…



主役はいいよね。言いたいことそうやって言えてさ!!


親の七光りだろうとなんだろうと、そんなの私は知るか!


英玲奈さんみたいなもん?それで構わないですよ。英玲奈さんは世間からすれば大物女優ですから!!


紗絵ちゃんみたいに歌って踊れて、主演務めてモデルで雑誌の表紙飾るような、スポットライト浴びるために生まれてきたような人には、私みたいな人間の気持ちなんてわかんないよ!!

は?私が最初からスポットライトばかり浴びてたわけじゃないって知ってるくせに。


私だってT.Kアカデミー出身だし、一般組だったんだから、スポットライトなんて最初から浴びてないから!!


私はね、当時付き合ってた彼氏すら捨ててんの!!


すべてを犠牲にして今があるの。


同じようにしろとは言わないし思わないけど、グダグダやってないで真剣に向き合えって言ってんの!!

この後も言い合いはしばらく続いた…


この日私は初めて紗絵ちゃんと喧嘩した…
※成瀬 紬 13歳


T.Kアカデミースクールレッスン中

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登場人物紹介

成瀬 紬(なるせ つむぎ)。

物語の主人公。紗絵の姪。内気で気弱。

成瀬 紗絵(なるせ さえ)。紬の叔母。

アーティスト、マルチタレント。

T.Kレコード所属RISE-1のメインボーカル。

山本 登(やまもと のぼる)。山本道場師範。修也の父親。絵里や紗絵の恩師。

山本 千鶴(やまもと ちづる)。修也の母親。

山本 修也(やまもと しゅうや)。のちに紬の幼馴染となる人物。初恋の人は茅ヶ崎 恵美。

沢田 水子(さわだ みずこ)。T.Kレコード会社マネージャー。紗絵の所属するグループRISE-1の担当マネージャー。

茅ヶ崎 恵美(ちがさき めぐみ)。

アーティスト、マルチタレント。紗絵と同じRISE-1のメンバー。紗絵とは親友でもありライバル。

佐々木 虎男(ささき とらお)。ギャング組織での一員。のちに紗絵の舎弟的存在となる。

藤堂 英玲奈(ふじどう えれな)。

美少女コンテストで紗絵が負けた相手。

美少女コンテストグランプリ受賞者。

紗絵より年齢は1つ上。

藤堂グループの令嬢。高飛車で性格は悪い。

安西 楓(あんざい かえで)。紬と修也と同年代で二人が高校生の頃に登場する人物。

紬の恋敵。

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