第1話 えっ、閉店するの?(その2)

文字数 1,854文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 日本には中小企業がたくさんある。事業者数は800万と言われているから、単純計算すれば15人に一人は会社の社長か個人事業主だ。
 政府は中小企業の後継者不足を懸念していて、中小企業庁において事業承継の支援をしている。代表的なものが中小企業基盤整備機構における「事業承継・引継ぎ支援センター」だ。

 中小企業基盤整備機構によれば、支援センターへの相談件数は年々増加していて、成約件数も年々増加している。2011年度から2022年度の事業承継・引継ぎ支援センターの実績は図表41の通りだ。

【図表41:事業承継の相談件数、成約件数、成約率】


出所:中小企業基盤整備機構

 成約数は2022年度が1,681件なので多いとは言えないものの、成約率は10%を超える年度もあるから、決して成約率が低いわけではない。
 この数値は支援センターの実施したもののみであるから、民間のM&A仲介会社、銀行、証券会社などが実施したものも含めれば件数はさらに大きくなる。

 一般的なM&Aに関わったことがある人は分かると思うが、一昔前は「M&Aの成約率は3%」と言われていた。
 日本は高齢化が進み事業承継が喫緊の課題となっている。事業承継に関連した中小企業のM&Aは年々増加していて、これからも増え続けるはずだ。

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 茜は思い出したように話し始めた。

「最近大学の同級生がサーチファンドに転職したんだけど、サーチャーが検討できないか聞いてみようかな」
「サーチャーってサーチファンドの経営者候補だよね?」
「そう。事業承継で後継者を探している会社を探しているんだってさ」
「あー、後継者不在の会社にピッタリかもしれないね」
「そうでしょ。PEファンドは買収金額がある程度大きくないと(数十億円程度)投資できないけど、サーチファンドだったら投資できるみたいだし」
「そうすると、この焼き鳥屋さんも対象になるかもしれないね」
「そう思うでしょ。だから、聞いてみようかなって」

 僕は茜の案は悪くないと思った。

 事業者会社やファンドが企業を買収する場合、ある程度の企業規模が必要になる。
 買収する会社の規模が大きくても小さくても手間はそれほど変わらないから、どうしても企業規模が大きな会社を買収した方が、効率がいいためだ。だから、小さな会社は買収対象から外される傾向にある。
 サーチファンドは企業規模の小さい会社でも検討できるだろうから、今回の後継者の件も相談できるかもしれない。

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 念のためにサーチファンドについても説明しておこう。

 まず、サーチファンドとは、経営者を目指す個人(サーチャー)が主導して中小企業のM&Aを行うファンドをいう。
 サーチファンドは企業買収ファンド(PEファンド)と似ているのだが、少し違う。

 サーチファンドの特徴は、「サーチャー」といわれる会社の経営者になりたい経営者候補(若者が多い)が、自分で買収候補の会社を探してくることだ。
 買収候補を探す期間、サーチャーはサーチファンドから資金サポートを受けることができる(固定報酬が出る)。会社の買収時にはサーチファンドの資金を使うことができる。

 この仕組みはサーチャー、サーチファンドの双方にメリットがある。

 サーチャーのメリットは資金面だ。
 サーチャーは活動資金をサーチファンドから受け取ることができるから、無収入の期間がなく買収先を探すことができる。サーチャーの自己資金が少なくても、サーチファンドの資金を使うことができるから買収金額が高くても対応できる。

 サーチファンドのメリットは人材面だ。
 サーチャーが企業買収をしてくれるからサーチファンドは買収候補と細かいやり取りをしなくてもいい。さらに、経営者候補を予め確保しているため、買収後に経営者を探す必要がない。つまり、手間が一般的なPEファンドよりも掛からない。

 サーチファンドは40年前から米国にはあるが、日本でサーチファンドが活動し始めたのは数年前だ。

※世界最初のサーチファンドが誕生したのは1984年に米国スタンフォード大学のビジネススクールだと言われています。サーチファンドの仕組み等を詳しく知りたい人は、下記のサイトをご覧下さい。
https://www.searchfund.co.jp/

 サーチファンドは日本では新しい存在だが、今までは投資対象とならなかった小規模な企業買収が増えていくかもしれない。
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