第2話 福沢の怒りを鎮め隊(その1)

文字数 1,061文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
また、本話には少し過激な表現が含まれます。決してマネしないで下さい。


 会議室にいた僕を見つけると、「よお!」と茜は手を上げて応えた。

 この日の茜は髪の毛がボサボサのスエット姿だった。
 昨日飲み過ぎて寝坊し、そのまま出勤したのだ。
 今朝見なかったと思っていたら、遅刻してこの会議室に直行したんだな。

「茜先輩だー!」
「まぢ? 本物初めて見た」

 ざわつく男性陣。
 僕は思い出した。
 彼らは茜派だ。今回も4対1になることを覚悟しないといけない。

 茜はホワイトボードの前に立つと、何やら書き始めた。

 【福沢の怒りを鎮め隊】

「これが、今回のプロジェクト名だ。君たちには福沢の怒りを鎮めてもらう!」

 ざわざわし始めたので、茜はホワイトボードをバンバン叩いた。
 ビックリした男性4人。静かに茜を見た。

「よー、君たち! 私と一緒に福沢の怒りを鎮めたいかーーー?」

 茜は右手を高く上げた。

「「「「おおーーー!」」」」

 茜に釣られて右手を高く上げる男性4名。

「私のために福沢の怒りを鎮めたいかーーー?」
「「「「おおーーー!」」」」

 男性4人はノリノリである。

 士気が高まったのを満足した茜。
 祟り神となった福沢について説明を始めた。

 新一万円札に起用された渋沢を良く思わない福沢。
 渋沢に乗り換えた日本を恨む福沢。
 福沢は恨みを晴らすために日本経済に打撃を与えようとしている。

 一通り説明が終わったところで、山田(財務省)が挙手した。

 茜は「なんだ?」と山田(財務省)に発言を許可した。

「福沢が日本を恨む理由は分かりました。ただ、分からないのが福沢が渋沢を嫌う理由です。なぜ、福沢は渋沢を恨んでいるのでしょうか?」

 緊張しながら発言する山田(財務省)。僕は微笑ましい光景だと見ていた。

「いい質問だ。福沢が学校を作ろうとしたとき、渋沢に金を借りに行ったらしいんだ。その時、渋沢は福沢に何て言ったと思う?」

 山田(財務省)が即答できないので、茜は田中(国交省)を指差した。

「申し訳ありませんがお金は貸せません、でしょうか?」

 律儀に茜の質問に答えた田中。そんな田中を見て茜は「ふっ」と笑った。

「全然ちがーう! 渋沢は『貧乏人が学校なんか作るんじゃねーよ!』って言ったんだ」

 私怨か……確か、福沢の方が渋沢よりも5歳年上だ。
 年下の渋沢にここまで言われれば、福沢は根に持つ。

「福沢はよく子供や孫に言ったそうだ。『渋沢みたいになるな』ってな」

<その2につづく>
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