第2話 PBR改革(その2)
文字数 1,959文字
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
自社株買いの話に入る前に、現在の株価の状況、東証が要請している株価対策について説明しておこう。
ここ最近、株式市場は活況だ。株価が順調に上昇している。日経平均株価は39,000円を突破し、バブル期の最高値を超えて史上最高値を更新している。もうすぐ日経平均株価が40,000円を突破するのでは、と言われている。
※記載時点(2024年2月25日)での話です。読む時期によって株価水準が違っているかもしれません。
日本ではバブル崩壊以降、株価が下がり続けた。ついこの間まで「失われた30年」と言われていた。だが、2020年後半から株価は上昇し、2024年2月には日経平均株価は史上最高値を更新した。今は「30数年ぶりの高値」とまで言われている。
株高の恩恵を受けているのは主に富裕層だ。現在は富裕層のみが株高によって潤っており、富裕層以外の国民にとっては好景気の実感がない。
株高が国民生活に直結しないため、日経平均株価を5万円にしても内閣支持率が上がるかどうかは分からない。でも、国内経済が好調になって賃上げが進めば国民も恩恵を受けることができる。長い目で見れば内閣支持率に繋がるのではないかと思う。
さて、図表63は日経平均株価の月次終値の推移を2000年1月から2024年1月まで示したものだ。2000年以降はITバブル崩壊、リーマン・ショックで大きく日経平均株価は落ち込んでいた。そして、低調だった株価はここ数年で一気に上昇した。
【図表63:日経平均株価<月次終値>の推移】
日経平均株価が史上最高値を更新したのには、パンデミックからの回復、円安による輸出売上の増加、インフレによる売上高の増加など様々な要因がある。
さらに、東京証券取引所がアナウンスしたことによって始まった「PBR改革」も株価対策として貢献しているといえる。
東京証券取引所は2022年末に上場失格(上場廃止基準ではなく、時価総額よりも清算価値の方が高いという意味)とみなされるPBR1倍割れ企業に改善を促すようにアナウンスした。
日本の大企業にはPBR1倍割れの企業が多い。米国のように巨大IT企業がない日本ではその傾向は顕著だ。2022年末において、日本の時価総額最大のトヨタ自動車のPBRは0.88倍、三菱UFJにおいてもPBRは0.64倍であった。
PBR1倍割れは純資産(清算価値)よりも時価総額の方が小さい状態である。つまり、企業として継続して活動するよりも、事業を廃止して(清算して)残余財産を株主に分配した方が良い、と株式市場が判断していることになる。だから、「上場失格」と言われる。
各社は「上場失格」の烙印を押されることを避けるために、様々なPBRの改善策を行った。具体的にはROE目標値の開示、株主還元の上積み、成長戦略の開示などだ。
その効果もあって、未だにPBR1倍割れの大企業は多いものの、PBR1倍割れを解消した企業が徐々に増えてきた。その意味で、PBR改革は株価の上昇に貢献したといえる。
さらに東証は2024年1月15日に『「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧表』を公表し、プライム市場及びスタンダード市場の全上場会社の2023年12月末時点での対応状況を開示した。
このリスト(一覧表)は上場企業にとてつもないプレッシャーになる。
なぜなら、株価を上げる努力をしていない企業を東証が公表して「さらし者」にしたからだ。
投資家はこのリストを見ているから、上場企業は東証が勧める株価対策に従わざるを得ない。
つまり、上場各社は東証の要請に従って株式市場(投資家)に向けて株価を上げる努力をしているメッセージを発信しないといけない。
また、東証は2025年3月にプライム市場上場企業に英文開示を義務付ける、と報道されている。
これは、外国人投資家への対策だ。外国人投資家が日本企業に投資するために大きな障害がある。それは日本語だ。
日本語は「ランゲージバリア(言葉の壁)」と言われるくらい、外国人には理解するのが難しい。外国人投資家は日本語が理解できなから、日本企業に投資しない。
つまり、世界の投資家が理解できる言語、すなわち英語で開示することが外国人投資家を日本の株式市場に呼び込むことに繋がるのだ。
長々と解説したが、東証の株価対策は大きく以下の3つと言える。
①上場企業の経営改善
②経営指標の投資家への開示
③英語の決算開示による外国人投資家の呼び込み
証券取引所(東証)が音頭をとって株価対策をするのは異例だ。だが、そのおかげで日経平均株価は史上最高値を更新した。
<その3に続く>
自社株買いの話に入る前に、現在の株価の状況、東証が要請している株価対策について説明しておこう。
ここ最近、株式市場は活況だ。株価が順調に上昇している。日経平均株価は39,000円を突破し、バブル期の最高値を超えて史上最高値を更新している。もうすぐ日経平均株価が40,000円を突破するのでは、と言われている。
※記載時点(2024年2月25日)での話です。読む時期によって株価水準が違っているかもしれません。
日本ではバブル崩壊以降、株価が下がり続けた。ついこの間まで「失われた30年」と言われていた。だが、2020年後半から株価は上昇し、2024年2月には日経平均株価は史上最高値を更新した。今は「30数年ぶりの高値」とまで言われている。
株高の恩恵を受けているのは主に富裕層だ。現在は富裕層のみが株高によって潤っており、富裕層以外の国民にとっては好景気の実感がない。
株高が国民生活に直結しないため、日経平均株価を5万円にしても内閣支持率が上がるかどうかは分からない。でも、国内経済が好調になって賃上げが進めば国民も恩恵を受けることができる。長い目で見れば内閣支持率に繋がるのではないかと思う。
さて、図表63は日経平均株価の月次終値の推移を2000年1月から2024年1月まで示したものだ。2000年以降はITバブル崩壊、リーマン・ショックで大きく日経平均株価は落ち込んでいた。そして、低調だった株価はここ数年で一気に上昇した。
【図表63:日経平均株価<月次終値>の推移】
日経平均株価が史上最高値を更新したのには、パンデミックからの回復、円安による輸出売上の増加、インフレによる売上高の増加など様々な要因がある。
さらに、東京証券取引所がアナウンスしたことによって始まった「PBR改革」も株価対策として貢献しているといえる。
東京証券取引所は2022年末に上場失格(上場廃止基準ではなく、時価総額よりも清算価値の方が高いという意味)とみなされるPBR1倍割れ企業に改善を促すようにアナウンスした。
日本の大企業にはPBR1倍割れの企業が多い。米国のように巨大IT企業がない日本ではその傾向は顕著だ。2022年末において、日本の時価総額最大のトヨタ自動車のPBRは0.88倍、三菱UFJにおいてもPBRは0.64倍であった。
PBR1倍割れは純資産(清算価値)よりも時価総額の方が小さい状態である。つまり、企業として継続して活動するよりも、事業を廃止して(清算して)残余財産を株主に分配した方が良い、と株式市場が判断していることになる。だから、「上場失格」と言われる。
各社は「上場失格」の烙印を押されることを避けるために、様々なPBRの改善策を行った。具体的にはROE目標値の開示、株主還元の上積み、成長戦略の開示などだ。
その効果もあって、未だにPBR1倍割れの大企業は多いものの、PBR1倍割れを解消した企業が徐々に増えてきた。その意味で、PBR改革は株価の上昇に貢献したといえる。
さらに東証は2024年1月15日に『「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧表』を公表し、プライム市場及びスタンダード市場の全上場会社の2023年12月末時点での対応状況を開示した。
このリスト(一覧表)は上場企業にとてつもないプレッシャーになる。
なぜなら、株価を上げる努力をしていない企業を東証が公表して「さらし者」にしたからだ。
投資家はこのリストを見ているから、上場企業は東証が勧める株価対策に従わざるを得ない。
つまり、上場各社は東証の要請に従って株式市場(投資家)に向けて株価を上げる努力をしているメッセージを発信しないといけない。
また、東証は2025年3月にプライム市場上場企業に英文開示を義務付ける、と報道されている。
これは、外国人投資家への対策だ。外国人投資家が日本企業に投資するために大きな障害がある。それは日本語だ。
日本語は「ランゲージバリア(言葉の壁)」と言われるくらい、外国人には理解するのが難しい。外国人投資家は日本語が理解できなから、日本企業に投資しない。
つまり、世界の投資家が理解できる言語、すなわち英語で開示することが外国人投資家を日本の株式市場に呼び込むことに繋がるのだ。
長々と解説したが、東証の株価対策は大きく以下の3つと言える。
①上場企業の経営改善
②経営指標の投資家への開示
③英語の決算開示による外国人投資家の呼び込み
証券取引所(東証)が音頭をとって株価対策をするのは異例だ。だが、そのおかげで日経平均株価は史上最高値を更新した。
<その3に続く>