第4話 再エネ事業をしよう(その2)

文字数 1,907文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 僕たちは垓のシミュレーション結果を見ている。

 日本政府は国営事業として再エネを開始した。
 まず、国有地のうち太陽光パネルを設置しやすい地域に太陽光発電施設を作り始めた。水力発電、風力発電や地熱発電はコストと時間が掛かる。太陽光発電施設のコストが最も安いし、早く建設できると政府が考えたからだ。

 政府は太陽光発電施設を作る対象地域を選定した後、その対象地域に対して太陽光発電施設を設置する計画があること、対象区域の土地は売却することができることを大々的にアナウンスした。

 メガソーラー(1MWを超える太陽光発電事業)に必要な土地は約3,000坪(約10,000㎡)であるが、日本政府は約5倍の規模を対象とした。つまり、1つの太陽光発電施設は15,000坪(約50,000㎡)だ。大規模な太陽光発電施設が建設されることになる。

「太陽光発電施設は景観を害する」と抗議する環境団体に対して、政府は「計画を阻止したいなら対象地域の土地を買取れ!」と強硬姿勢に出た。ここから、環境団体と政府の戦いが始まる。

 環境団体は太陽光発電施設の建設を阻止するために、候補地の買取資金を集めるようになった。地元企業から寄附を集めたり、クラウドファンディングで募集したりして資金を調達した。

 政府は対象地域の土地が低廉譲渡されると困るから、競争入札によって売却を実施することになった。
 政府の土地売却のための競争入札には政府関係機関、民間発電事業者と環境団体が参加した。

 このうち、民間事業者が参加するのには理由があった。民間事業者が太陽光発電施設を建設する場合、既存発電施設との関係で電力会社へ接続させてもらえない可能性もある。また、稼働後も出力制限が要請される場合があり、想定している売電収入が得られない可能性がある。
 今回のプロジェクトは、事前に日本政府が電力会社と接続、出力制限を行わない旨の合意ができていた。だから、民間事業者には対象地域が理想的な太陽光発電施設用地として魅力的に映ったようだ。

 ***

 入札が始まった。司会者が参加者に対象土地の説明を始めた。

「今回の入札対象は〇〇市〇〇町〇〇の15,000坪(約50,000㎡)の土地です。最低入札価格は1坪5,000円、総額7,500万円からスタートします」

「1億5,000万円!」
 政府関係機関が挙手した。1坪10,000円と計算している。

※通常の入札はこのようなオークション形式ではなく、書面提出によって実施されます。このシーンはあくまで創作とご理解下さい。

「3億円!」
 今度は環境団体が手を挙げた。
 環境団体は政府関係機関の2倍の価格で入札した。1坪20,000円の計算だ。

「4億5,000万円!」
 民間事業者が手を挙げた。こちらは1坪30,000円。

 政府系機関は入札を中断した。既に政府が想定していた最低落札価格を超えたのだろう。

 環境団体は相談を始めた。4億5,000万円を超える金額で入札しなければ、土地は民間事業者が落札してしまう。
 環境団体は民間事業者に落札されるのを何としても阻止したいと考えている。民間事業者は太陽光発電施設を建設する予定だから、政府が太陽光発電施設を建設するのと変わらないからだ。

「6億円!」
 環境団体が1坪40,000円で入札した。

 環境団体が追随してくると思っていなかった民間事業者は驚いている。ただ、民間事業者もここで諦める気はないようだ。
 民間事業者は司会者に断ってから、部屋から出て電話をし始めた。本社と入札額について相談しているのだろう。詳細は聞こえないものの「はい、はい」と声が聞こえる。
 民間事業者が部屋に戻ってきた。

「7億5,000万円!」
 民間事業者は1坪50,000円で入札した。

 環境団体は入札額を上げる相談しているが、「これ以上は……」という声が聞こえてくる。
 環境団体がドロップした。

 入札の結果、民間事業者が太陽光発電施設の建設予定地を取得した。
 民間事業者は今後、太陽光発電施設を敷地に建設することになる。


 その後も全国で太陽光発電施設の敷地売却の入札が実施されたのだが、落札したのはほぼ民間事業者であった。国有地であるため権利関係が明確で、電力会社との事前交渉も完了している土地であったから、民間事業者は何としても手に入れたかったようだ。

 こうして、全国の国有地は民間事業者に売却され、太陽光発電施設が増加していった。
 国有地の民間事業者への売却は再生可能エネルギーの普及に貢献したといえる。

<その3に続く>
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