第3話 日経平均の構成銘柄を変えろ!(その1)
文字数 2,142文字
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
自社株買いスキームで日経平均4万2,000円突破のシミュレーション結果を得た僕たち。自社株買いで株価を引き上げることはできることが分かった。
でも、政府の僕たちに対する依頼は日経平均5万円の突破。あと8,000円足りない。
僕たちは更なる株価上昇の方法を検討することにする。
株価の構成要素はいろいろある。企業の業績は株価に関係するし、為替レートも株価に関係する。日本や世界の政治・経済の動向も株価に影響する。
例を挙げればキリがない。
僕は日経平均株価を最も効率的に上げる株価構成要素について考えることにした。
まず、株価は企業の業績等に左右されるものだと一般的に考えられている。
しかし、これは間違いではないが正しくない。
例えば企業の成長ステージによって株価水準は大きく差がある。
企業の成長ステージと株価の関係を示したものが図表69だ。
【図表69:企業の成長ステージと株価の関係】
企業は創業期を経て、売上や利益が増える成長期を迎える。成長期を経た後、企業は業績が安定する成熟期に入る。そして、市場競争が激しくなると企業の衰退期に入って売上・利益は徐々に衰退していく。全ての企業はこの4つのステージのどこかにいる。
4つのステージのうち、企業が最も儲からない時期(赤字、キャッシュ・フローがマイナス)は成長期だ。この時期は売上を伸ばすために設備投資を積極的に行うから常に資金ショートと戦っている。成長のための費用支出も大きいから成長期の企業は赤字を抱えている。
逆に、企業が最も儲かる時期(売上や利益が高い)のは成熟期と衰退期だ。成熟期や衰退期は追加投資をしなくても惰性で売上を維持できる。さらに、非生産的な部分を除けるし、リストラによってコストカットできるから利益も出やすい。
一方、株価は成長期が最も高くなる傾向がある。成長期には企業が大きく成長するポテンシャルがあるからだ。
成熟期になると業績は安定するものの株価は大きく下がる。これは企業の成長が頭打ちになったと投資家が判断し、企業の株式価値が適正値に調整されるからだ。
つまり、株価は企業が成長過程にある不安定な時期の方が高い。
だから、株価水準は企業の業績とは関係がないといえる。
念のために、なぜ成長期の企業の株価が高いのかを説明しておこう。
図表69-2のように成長期と成熟期の会社があったとする。
成長期の会社は低確率(10%)だが利益が100倍(10,000%)になり、高確率(90%)で倒産する。
成熟期の会社は高確率(90%)で利益が5%出る。
【図表69-2:成長期と成熟期の利益の期待値】
※成長期の失敗は倒産(投資金額の全損(-100%))としています。
成長期の期待値:10%×10,000%+90%×-100%=910%
成熟期の期待値:90%×5%+10%×0%=4.5%
この2つを比較したら利益の期待値は、成長期の910%に対して成熟期は4.5%だ。つまり、成長期の会社は失敗する確率は高いものの成功した場合の利益の期待値が大きいから株価が高くなる。
業歴の長い大企業ほど株価倍率(例えば、PERやPBR)が低いのはこれが理由だ。
**
さらに、日経平均株価(日経225)は株式市場の値動きを正確に表しているものではない。日経平均株価が示しているのは構成銘柄である225社の株価変動だ。225社の株価変動だけが指数として計算される。
だから、構成銘柄(225社)の内訳が変われば日経平均株価の変動は今とは違ったものになる。
※日経平均株価(日経225)の構成銘柄についてはこちらを参考にして下さい。
https://indexes.nikkei.co.jp/nkave/index/component?idx=nk225
極論すれば、業績の悪い上場企業や株価が低迷している上場会社を除外し、成長率の高い上場企業や株価が高く評価される上場企業を追加すれば、日経平均株価は上がりやすくなる。
姑息な手段ではあるが日経平均株価を5万円にするために有効な手段だろう。
この考えに基づき、僕は日経平均株価の構成銘柄の入れ替えを提案することにした。
***
「ちょっと考えたんですけど……」と言ったら、新居室長が僕の方を見た。
「日経平均株価を5万円にするためには、もう一段階対策が必要だと思うんです」
「自社株買いで4万2,000円になった。あと8,000円上げる必要があるわね」
「そうです。それで、日経平均株価をさらに引き上げるためには、上がり易い構成銘柄にする必要があると思うんです」
「日経225の構成銘柄を入れ替えるってこと?」
「そういうことですね」
僕たちの話を聞いていた茜。ちょっと呆れたような顔をしている。
半笑いで「ワトソン君、それをチェリー・ピッキングと言うんだよ」と茜は言った。
指数を調整するのは良くないことだ。それは僕も分かっている。
でも、日経平均株価を5万円にするのは簡単なことじゃない。
これくらいのインチキは許されるべきだ、と僕は思う。
――僕は間違っているのだろうか?
<その2に続く>
自社株買いスキームで日経平均4万2,000円突破のシミュレーション結果を得た僕たち。自社株買いで株価を引き上げることはできることが分かった。
でも、政府の僕たちに対する依頼は日経平均5万円の突破。あと8,000円足りない。
僕たちは更なる株価上昇の方法を検討することにする。
株価の構成要素はいろいろある。企業の業績は株価に関係するし、為替レートも株価に関係する。日本や世界の政治・経済の動向も株価に影響する。
例を挙げればキリがない。
僕は日経平均株価を最も効率的に上げる株価構成要素について考えることにした。
まず、株価は企業の業績等に左右されるものだと一般的に考えられている。
しかし、これは間違いではないが正しくない。
例えば企業の成長ステージによって株価水準は大きく差がある。
企業の成長ステージと株価の関係を示したものが図表69だ。
【図表69:企業の成長ステージと株価の関係】
企業は創業期を経て、売上や利益が増える成長期を迎える。成長期を経た後、企業は業績が安定する成熟期に入る。そして、市場競争が激しくなると企業の衰退期に入って売上・利益は徐々に衰退していく。全ての企業はこの4つのステージのどこかにいる。
4つのステージのうち、企業が最も儲からない時期(赤字、キャッシュ・フローがマイナス)は成長期だ。この時期は売上を伸ばすために設備投資を積極的に行うから常に資金ショートと戦っている。成長のための費用支出も大きいから成長期の企業は赤字を抱えている。
逆に、企業が最も儲かる時期(売上や利益が高い)のは成熟期と衰退期だ。成熟期や衰退期は追加投資をしなくても惰性で売上を維持できる。さらに、非生産的な部分を除けるし、リストラによってコストカットできるから利益も出やすい。
一方、株価は成長期が最も高くなる傾向がある。成長期には企業が大きく成長するポテンシャルがあるからだ。
成熟期になると業績は安定するものの株価は大きく下がる。これは企業の成長が頭打ちになったと投資家が判断し、企業の株式価値が適正値に調整されるからだ。
つまり、株価は企業が成長過程にある不安定な時期の方が高い。
だから、株価水準は企業の業績とは関係がないといえる。
念のために、なぜ成長期の企業の株価が高いのかを説明しておこう。
図表69-2のように成長期と成熟期の会社があったとする。
成長期の会社は低確率(10%)だが利益が100倍(10,000%)になり、高確率(90%)で倒産する。
成熟期の会社は高確率(90%)で利益が5%出る。
【図表69-2:成長期と成熟期の利益の期待値】
※成長期の失敗は倒産(投資金額の全損(-100%))としています。
成長期の期待値:10%×10,000%+90%×-100%=910%
成熟期の期待値:90%×5%+10%×0%=4.5%
この2つを比較したら利益の期待値は、成長期の910%に対して成熟期は4.5%だ。つまり、成長期の会社は失敗する確率は高いものの成功した場合の利益の期待値が大きいから株価が高くなる。
業歴の長い大企業ほど株価倍率(例えば、PERやPBR)が低いのはこれが理由だ。
**
さらに、日経平均株価(日経225)は株式市場の値動きを正確に表しているものではない。日経平均株価が示しているのは構成銘柄である225社の株価変動だ。225社の株価変動だけが指数として計算される。
だから、構成銘柄(225社)の内訳が変われば日経平均株価の変動は今とは違ったものになる。
※日経平均株価(日経225)の構成銘柄についてはこちらを参考にして下さい。
https://indexes.nikkei.co.jp/nkave/index/component?idx=nk225
極論すれば、業績の悪い上場企業や株価が低迷している上場会社を除外し、成長率の高い上場企業や株価が高く評価される上場企業を追加すれば、日経平均株価は上がりやすくなる。
姑息な手段ではあるが日経平均株価を5万円にするために有効な手段だろう。
この考えに基づき、僕は日経平均株価の構成銘柄の入れ替えを提案することにした。
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「ちょっと考えたんですけど……」と言ったら、新居室長が僕の方を見た。
「日経平均株価を5万円にするためには、もう一段階対策が必要だと思うんです」
「自社株買いで4万2,000円になった。あと8,000円上げる必要があるわね」
「そうです。それで、日経平均株価をさらに引き上げるためには、上がり易い構成銘柄にする必要があると思うんです」
「日経225の構成銘柄を入れ替えるってこと?」
「そういうことですね」
僕たちの話を聞いていた茜。ちょっと呆れたような顔をしている。
半笑いで「ワトソン君、それをチェリー・ピッキングと言うんだよ」と茜は言った。
指数を調整するのは良くないことだ。それは僕も分かっている。
でも、日経平均株価を5万円にするのは簡単なことじゃない。
これくらいのインチキは許されるべきだ、と僕は思う。
――僕は間違っているのだろうか?
<その2に続く>