第4話 労働時間を増やしてみよう!(その4)
文字数 1,384文字
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
納得がいかない加藤さん。鈴木さんに尋ねる。
「鈴木さんたちが裏切らないことを良いことに、〇林組・〇島建設・〇中工務店は『ノー残業』で万博会場の建設をしている。働き方改革を遵守する優良企業。そいうわけですか?」
「そうだよ。僕もAさんもBさんも副業は自分たちの意思だ。僕たちは残業しているわけじゃない。だから、〇林組・〇島建設・〇中工務店はホワイト企業だよ」
「でも、実質的にブラックですよね?」
加藤さんの質問に対して、鈴木さんは少し考えてから言った。
「まぁね。僕たちはこの仕組みをワークシェアリングって呼んでる」
「ワークシェアリング……本来の意味と違いますよね」
「そうだね。限りなくブラックな職場環境をホワイトに見せるためのテクニックらしい」
鈴木さんは笑顔で言った。
「……」
ブラック企業に肉体的・精神的に追い詰められている鈴木さん。もはや何が正しいのか判断できない精神状態になっているのだ。
ディレクターの加藤さんは鈴木さんを助ける方法がないかを考えている。
「あの、鈴木さん」
「なんですか?」
「このワークシェアリングは違法です」
「違法? どうしてですか?」
「鈴木さんは睡眠時間4時間、家にも帰れないような労働環境で働かされているんです」
「まぁ、帰れないね」
鈴木さんはブラックであることを認識している。でも、副業は自分たちの意思だから会社に違法性はないと考えているのかもしれない。
加藤さんは切り口を変えて質問した。
「最後に子供に会ったのはいつですか?」
「息子に会ったのは……2カ月前くらいかなー」
「2カ月前……ちなみに息子さんは何年生ですか?」
「小学3年生だよ。『運動会で息子がアンカーを走るんです!』って所長に言ったら、3時間外出させてもらえたんだよ。この忙しいのに3時間も外出できたんだよ。すごいと思わない?」
鈴木さんは、息子の運動会を見るためのたった3時間の外出を感謝している。
小学校までの移動時間もあるから、運動会にいられたのは1時間もなかったかもしれない。
最後まで運動会を見ることは当然できないし、息子と話せたかどうかも微妙だ。
鈴木さんはこんな生活をいつまで続けるつもりだろうか?
ディレクターの加藤さんは決心した。
「鈴木さん、会社を告発しませんか?」
**
ディレクターの加藤さんが作成した鈴木さんのドキュメンタリー番組は全国ネットで放送された。
そこには、万博会場の建設を期限内に終わらせるために家族にも会えず、僅かな睡眠時間で馬車馬のように働く鈴木さんの姿が描かれていた。
鈴木さんのような劣悪な労働環境におかれた労働者の中には、精神的な重圧に耐えきれず自殺する者もいたようだ。
その後、ワークシェアリング法は労働基準法の精神を著しく害するものとして、改正されるのであった。
ダイジェスト映像はそこで終わった。
***
「ダメじゃん」と僕は茜に言う。
当の茜は「鈴木さんがドキュメンタリー番組に出なかったら、バレなかったのになー」と悔しそうにしている。
副業を増やせば日本の一人当たりGDPは伸びる。でも、僕はこの労働環境はマズいと思う。
新居室長を見たら、僕と同じような反応をしていた。
話し合いの結果、僕たちはこの案を政府に提案しないことにした。
納得がいかない加藤さん。鈴木さんに尋ねる。
「鈴木さんたちが裏切らないことを良いことに、〇林組・〇島建設・〇中工務店は『ノー残業』で万博会場の建設をしている。働き方改革を遵守する優良企業。そいうわけですか?」
「そうだよ。僕もAさんもBさんも副業は自分たちの意思だ。僕たちは残業しているわけじゃない。だから、〇林組・〇島建設・〇中工務店はホワイト企業だよ」
「でも、実質的にブラックですよね?」
加藤さんの質問に対して、鈴木さんは少し考えてから言った。
「まぁね。僕たちはこの仕組みをワークシェアリングって呼んでる」
「ワークシェアリング……本来の意味と違いますよね」
「そうだね。限りなくブラックな職場環境をホワイトに見せるためのテクニックらしい」
鈴木さんは笑顔で言った。
「……」
ブラック企業に肉体的・精神的に追い詰められている鈴木さん。もはや何が正しいのか判断できない精神状態になっているのだ。
ディレクターの加藤さんは鈴木さんを助ける方法がないかを考えている。
「あの、鈴木さん」
「なんですか?」
「このワークシェアリングは違法です」
「違法? どうしてですか?」
「鈴木さんは睡眠時間4時間、家にも帰れないような労働環境で働かされているんです」
「まぁ、帰れないね」
鈴木さんはブラックであることを認識している。でも、副業は自分たちの意思だから会社に違法性はないと考えているのかもしれない。
加藤さんは切り口を変えて質問した。
「最後に子供に会ったのはいつですか?」
「息子に会ったのは……2カ月前くらいかなー」
「2カ月前……ちなみに息子さんは何年生ですか?」
「小学3年生だよ。『運動会で息子がアンカーを走るんです!』って所長に言ったら、3時間外出させてもらえたんだよ。この忙しいのに3時間も外出できたんだよ。すごいと思わない?」
鈴木さんは、息子の運動会を見るためのたった3時間の外出を感謝している。
小学校までの移動時間もあるから、運動会にいられたのは1時間もなかったかもしれない。
最後まで運動会を見ることは当然できないし、息子と話せたかどうかも微妙だ。
鈴木さんはこんな生活をいつまで続けるつもりだろうか?
ディレクターの加藤さんは決心した。
「鈴木さん、会社を告発しませんか?」
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ディレクターの加藤さんが作成した鈴木さんのドキュメンタリー番組は全国ネットで放送された。
そこには、万博会場の建設を期限内に終わらせるために家族にも会えず、僅かな睡眠時間で馬車馬のように働く鈴木さんの姿が描かれていた。
鈴木さんのような劣悪な労働環境におかれた労働者の中には、精神的な重圧に耐えきれず自殺する者もいたようだ。
その後、ワークシェアリング法は労働基準法の精神を著しく害するものとして、改正されるのであった。
ダイジェスト映像はそこで終わった。
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「ダメじゃん」と僕は茜に言う。
当の茜は「鈴木さんがドキュメンタリー番組に出なかったら、バレなかったのになー」と悔しそうにしている。
副業を増やせば日本の一人当たりGDPは伸びる。でも、僕はこの労働環境はマズいと思う。
新居室長を見たら、僕と同じような反応をしていた。
話し合いの結果、僕たちはこの案を政府に提案しないことにした。